妖怪パロ あやかしあやし
玖-犬神自らの理由を隠し、学園生活を大いに楽しむ-
「ということだ」
仙蔵はあっさりと話を締めくくり、火薬を扱って火傷をした手をひらひらと動かし保健室から出ていった。
「そういえば、僕は死んでいく人たちを見て助けたいと思ったから此処に来たわけだけど、文次郎は?」
伊作が二人になった保健室で文次郎に質問を投げ掛けた。
文次郎は、口をつけていたお茶を盛大に吹き出した。
「ちょ、文次郎汚いー」
「げっほ、げほっ」
伊作のたしなめる声に申し訳ないと思いながらも、渡された雑巾で汚れた床を拭いた。
「な、何でもいいだろうっ!」
文次郎は口を開こうと思ったが、やはりここに来た理由を気心が知れた伊作に話すには恥ずかしく(しかも伊作は随分と真面目で素晴らしい目的で来ている)貰ったお茶を少々乱暴に置きそそくさと保健室を出ていってしまった。
「え、私って嫌われてる?」
死を見つめ続けてきたお陰で随分と根暗に育ってしまった彼は一人遺されて呟いた。
文次郎は顔を赤くしたまま長屋へと向かっていた。
二年生の長屋へは一年生の長屋を通っていくのが一番早いのだ。
「あれ、潮江先輩じゃないですか」
そこにいたのは新入生の中で知り合いと言える四人の内一人だけクラスが離れた兵助だった。
彼は自室の前で煙管を弄っていた。
兵助がとある商家の繋がりでてにいれたというそれには、式神である管狐が入っている。
見えるのは霊力が高い人間か、同じ穴の貉だけだが。
式神とは主を持った妖怪の総称だ。
例えその主が人であろうと無かろうと纏めて式神と彼等は呼んでいる。
式神には式神の中で階級があり呼ばれ方も違うようだが。
今この場には言葉もろくに話せない小さな管狐だけなので式神と呼ぶ事にしよう。
「どうしたんです?」
兵助は煙管を回す。
その仕草は何故か仙蔵に良くにていた。
「伊作が此処に来た理由を知って、ちょっとな」
文次郎は近くの柱に寄りかかった。
情けなくもアイツが来た理由を知って自分が惨めになったんだ、と呟いた。
「なんせ、相手を探せって言われてもな」
「しかも結婚相手」
「そう」
大きくため息をつく文次郎に兵助は、今まで相手を決めなかった貴方が悪いでしょうにと書いたばかりの文を管狐に持たせた。
覗き見れば、一年生が書いたとは思えないような達筆だ。
内容は喜八郎に当てた仕事についての話だった。
「そうなんだがな。ったくジジィ共の口を黙らせるのも一苦労だ」
「この六年間で見つからなかったらどうするつもりで?跡継ぎが欲しいのでしょう、犬神様?」
兵助は一切文次郎を見ずに言の葉をほぐ。
その言霊は空気に融けて消えた。
兵助が一瞬だが、本来の黒狐の力を纏った事に目を向いた文次郎だったが特に気にする事もなくきっぱりと言い捨てた。
「そんときゃジジィ共を力で黙らせるだけだ」
ニタリと数年前から消えない隈はどうやら此処に入ってから酷くなった様にみえる。
忍の修行が楽しいのだろう。
文次郎は文次郎でこの学園生活を楽しんでいる用に見えた。
「俺も楽しむとしますかね」
そして季節は一巡り。
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