【青】愛の攻防
あ……ああ、
あ……
あンの野郎ォォォォ〜〜〜ッッッ!!!!!
何もかも全てを思い出した時、胸を占めたのは哀愁とかそんな生やさしいものではなく、単純な怒りだった。
やりやがったなあの野郎!
この私が!ようやく重い腰を上げて!!悲惨な運命をなんとか回避しようと覚悟を決めた矢先に!!!
「よくも……よくもやりやがりましたねイタチ兄さん……!許さん……絶対許さん……!」
記憶を奪われる直前に見た、イタチ兄さんのあの微笑み。あれは多分、私の傲慢な勘違いじゃなければ……「守るべきもの」に向ける笑顔だった。
これ以上私を巻き込みたくないとか、危険に晒したくないとか……元は一般人である私を、なんとか逃がそうと色々考えてくれたんだろう。イタチ兄さん、とことん優しいもんね。
それは分かる。ものすごく分かる。
まあ、だから何だって話なんだけどな!!!
「ちょっっっっと自分勝手過ぎませんかあの人!人のことばっか考えてるくせに、本質的には自分勝手!!私より酷いんじゃないですか!?せめて!一言!!相談!!!しろ!!!!」
相談したところで多分私もイタチ兄さんも譲る気はないので、結局どちらかが我を通すことにはなるんだけど。それにしてもだ。
「なんなんですかご丁寧に記憶まで奪って!安全地帯に放り出して!全部忘れて幸せに生きてろってことですか!!苦しむのは自分だけで良いってことですか!!そんなの、そんなのって……」
一度言葉が途切れると、怒りはそこから急激にしぼんでいってしまう。そのあとに胸を占めたのは、
「…………結局、私は必要ないってことですか」
……悔しい。
医療忍術を覚えたり、転送忍術なんてのも勉強したりして、それなりに強くなれてると思ってた。
そりゃ大蛇丸さんとか、暁のみんなには遠く及ばないだろうけど、それでも私なりに、運命を変えるために必要な力はつけ始めてたはずだ。
痛い思いもして、怖い思いもして、せっかく立ち向かおうと前を向いたのに。
……それなのに。
「こんなのって、あんまりじゃないですか……イタチ兄さん……」
背中を丸めて、その場にうずくまる。
虚しかった。怒りや悔しさをぶつけるべき相手は、この世界のどこを探したって存在しないんだから。
……………。
「ふ……ふふふ……」
やがて喉から笑いが漏れ出す。この笑いはアレだ、色々なものが自分のキャパシティを超えた時に出てくる時の笑いだ。
「ふふふ……分かりました。よーーーく分かりましたよイタチ兄さん。そっちがその気なら、私だってもう遠慮しませんから」
元々遠慮のない私でも、一応イタチ兄さんのあれこれについては、それなりに気はつかってたつもりだ。
イタチ兄さんが人生と魂をかけて守り通そうとした決断を尊重しなきゃとか、イタチ兄さんの覚悟を邪魔しちゃいけないとか。
さすがに踏み込んではいけないラインを考えて、それを飛び越さないよう気を付けてた。
でも、もうなし。そんなもん一切なし。知ったことか。
向こうは、私を元の世界に送り返して、もうすっかり片付いた気でいるんだろう。
だが、名前ちゃんを舐めてもらっちゃあ困る。
私たちは、一度は出会えたんだ。それが運命なのか偶然なのかは知らないけれど、一度目があったんなら二度目もあり得るはずだ。
……意地でもあの世界に舞い戻ってやる。
決められたストーリーとか、運命とか、もう知らない。全部しっちゃかめっちゃかにしてやるんだ。
「思い知るが良いですよイタチ兄さん……こうなったら私、マジでめっちゃくちゃしつこいんですからね」
そうと決まればさっそく行動。とはいえ何をどうすればあの世界に行けるのか分からないので、とりあえず今できることをやろう。
「……向かうべきは本屋さん、ですね」
まずは、彼らを呑み込む運命の行く先を、見届けなければいけない。
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