退屈は人生最大の毒
ああ、暇だ。
暁のアジトにいた頃は、遊び相手もいたし読みたい本もあった。
それに比べてここといったら、話せる相手は大蛇丸さんかカブトくん。どっちも話してて楽しいタイプじゃないし、ちょっかいかけたくもならない。なんか身の危険感じるし。
本だって、何だか物騒でおどろおどろしくて難しそうな本しかない。
「……暇だなあ」
ぼそりと呟くそれは、半分は当て付けのつもりだ。
さっきからずっと、大蛇丸さんは私の隣で、私には到底理解出来ないような難解な本を読んでいた。
読んでるだけで私に話し掛けたりとかしないクセに、自分が読み終わるまで離れるなとか言うんだから。わけが分からない。
「大蛇丸さん、せめて私にも読めるような本は無いんですか?」
「そうね、基本的に専門書しかないけれど……これなんかどうかしら」
手渡されたのは、どうやら医療忍術に関する本。
医療忍術か。私には無縁のものだと思ってたけど、どうせヒマだし、ちょっとやってみるの面白いかも知れない。
「ふむ。でもこれって、チャクラコントロールとかビシッとしなきゃいけないんですよね?」
「そうね、医療忍術はチャクラコントロールが命よ」
「なにぶん私は、大雑把なクチでして」
「ふふ、期待はしてないわ。それにアナタが医療忍術に長けていようものなら、カブトがもっと冷たくなるわよ」
「はい?」
意味が分からずに尋ねると、大蛇丸さんはニヤリと笑って誤魔化した。
「アナタには関係の無い事ね」
「はあ。ねえ大蛇丸さん、私そろそろ行って良いデスか。これ読むなら部屋で読みたいし」
「駄目よ。ここで読めば良いでしょう」
「落ち着いて読めないんですよ」
アナタが居るから。と、心の中で付け加えた。何だか大蛇丸さんには、全て読まれてる気はするけど。
仕方ないので、私は大蛇丸さんから受け取った本を開く。わあ、難しい。
「もっとこう、初歩的な本は無いんですか。入門編みたいな」
「今度カブトにでも頼んでおきなさい」
「はあ……カブトくんに頼み事って、ヤなんですよねえ。絶対に貸しを作りたく無いタイプというか」
「ふふ……まあ、正解といえば正解だわね。良いカンしてるわ」
ホントはカンじゃなくて、知ってるだけなんだけどね。
でも私が別の世界から来ただとか、未来を知ってるだとか言ったらまた面倒な事になりそうだし、出来る限り黙っておこう。
「ヒマだなー」
何度目かのそれを呟いたとき、ようやく現場を打破する人物が現れた。
「大蛇丸さま、北アジトの件でお話しが」
「カブトくーーーん会いたかったよお!」
勿論お見舞いするのは、抱擁ではなく飛び蹴りだ。
カブトくんはそれを軽く流すと、まるで私をいないもののように扱いつつ、大蛇丸さんとの会話を続行する。このスルースキル、どこで磨いたんだろう。
「おいコラ腹黒メガネ。この私を無視するとは良い度胸してますね」
「何だキミか。悪いが黙っててくれないか。キミに構ってるほどヒマじゃないんだ」
「そんな事言って、いつも構ってくれないじゃないですか」
「つまりボクは、いつも忙しいんだよ。分かったらどっか行っててくれ」
「イヤデスヨーそんなの知ったこっちゃないデスよー」
ちょっとからかってみたら、意外にも大蛇丸さんがぷっと吹き出す。
大蛇丸さんに笑われたことが心外だったのか、カブトくんは少しだけ顔を赤らめた。
「カブト、アナタ良いように扱われてるわね」
「勘弁して下さいよ大蛇丸さま。コレの相手、結構疲れるんですから」
「おい待てカブトくん、コレとは何ですかコレとは」
あ、でも待てよ。
ふと思い付いて、それ以降の悪態を飲み込む。
「ねーカブトくん。お願いがあるんですけど」
「嫌だ」
「まだ何も言ってないじゃないですか!あのですね、私に医療忍術を教えて下さい!」
「はあ?」
うわ、出たよその、なに言ってんだこの馬鹿女って顔。似たような表情はよく鮫さんにされてたけど、鮫さんのはもっと、愛に溢れてた気がする。
………………いや、気がするだけだな。
「キミ、医療忍術のなんたるかを知ってるかい?キミみたいなガサツなのに出来る筈か無いだろ?」
「あら失礼な。私こう見えても、変な所にマメさを発揮するタイプですよ?良いじゃないですか減るもんじゃなし!」
「減るだろ、ボクの時間が」
ぐぬう。正論過ぎて反論出来ない。
しかしこのままじゃ私は、ヒマ過ぎて死んでしまう。何とかせねば。
「良いじゃない、付き合ってあげれば」
その一言で、カブトくんの動きが止まった。
ちらり、と大蛇丸さんを見て、その後でカブトくんを見る。ぷぷぷ、良い表情。大蛇丸サマには逆らえないもんね?
「んふふ。だ、そうですよ」
にたりと笑いながら顔を覗き込んでやれば、とびきりの舌打ちと嫌悪の表情を頂いたのでした。
(賭けても良いけど、キミに医療忍術は無理だね)
(おや、私って案外やるもんですよ?)
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