猫を紐で繋いじゃ駄目。 「軟禁反対ぃぃぃ!」 今朝、ついにぶち切れた私は、部屋に入ってきた大蛇丸さんを襲撃(仮)した。 「あら名前、今日は元気が良いのね」 「良い加減出して下さい!もうこんな地下生活無理です!絶対無理です!ストレスMaxで死にそうです!」 「そう、死なれちゃ困るわね」 あらら、案外すんなり出してくれる気が…… …………大蛇丸さんのいやーな笑みを見たら、そんな気しなくなった。 「名前、私が何を危惧しているか……解る?」 「え、いやさっぱり解りません。っていうか近いです」 私はベッドに腰掛けたまま、じりじりと後退った。 そもそもだいたい、大蛇丸さんが部屋に来た時に、ベッドに座ってるっていうのが自殺行為なんだ。次から降りよう。 …………なんて、今更考えても遅い訳で。 「……っちょっと、離れて下さい!」 「離したら、どこかに行ってしまうでしょう?」 はあ?当たり前じゃボケ。 なんて怖くて言えない。 「ふらふら飛び回って……結局どこに降り立つのかしら……あなたは」 「どこにって、」 暁の皆の所、じゃないデスか? そう言おうとして、はっと口をつぐんだ。 私は本当に、皆の所に帰るつもりがある? だって暁が、いつかやられてしまうのは分かっている。 それを分かっていながら言わずにいたのは、体を張ってストーリーを変える気なんて無かったから。 ……いや、違う。 甘えていたんだ。いつまでも、同じ日常が続くと。 毎日を浪費していく間にも物語は進み、親しい人たちは破滅へと向かっていっていると知っていながら、見ないふりをしていた。 怖かった。 「……お前、素直に暁に帰れるの?そんなに揺らいでいるのに」 「………何で、そんな」 「お前に、後ろめたい所があったみたいだから、ちょっとつついてみただけよ」 ……カマかけられた、って奴か。 オカマなだけに。 ………………あれ?今私、何か物凄くつまんない事言った? うわ、死ねよ私の脳細胞。 危機的状況にも関わらず、私の頭は下らない事ばかり考えている。 ホント、大蛇丸さんが人の心読めなくて良かった。 「でも、ふらふらしてるのは本当よ。あなたは、暁に頼ってはいても依存はしていない。仮に暁が無くなったとしても、名前はきっと上手くやっていける……でしょう?」 ………その通りだ。 何でこの人、こんなに人の心を掻き乱すのが上手いんだろう。 あ、大蛇丸さんだからか。 「さあ、それに気付いた今……名前は平気な顔して、暁に帰れるのかしら」 大蛇丸さんは笑いながら、私の髪に手を伸ばした。 何をしているのか分からなかったが、大蛇丸さんが引いた手に握られている物を見て、血の気が引く。 ――小南ちゃんから貰った、お花の髪飾り。 「それ!返して下さい!」 奪い返さんと手を伸ばすも、無駄なあがき。 大蛇丸さんの掌に燃え上がった炎は、一瞬で紙の花を包み込んだ。 「な……にするんですか!」 「あいつ等と一緒に居た証など、不要の物よ」 紅色の炎は闇に消え、唯一の繋がり――折角小南ちゃんが、私のために作ってくれた花を燃やされて、怒るのも忘れてしまう。 そんな私の心をよく解っている筈の大蛇丸さんは、私の耳元に唇を寄せて、満足気に呟いた。 「帰さないわ………どこにも」 (散った灰を掻き集めて、) (せめてごめんなさいと、彼女に呟いた) [*前へ][次へ#] |