[携帯モード] [URL送信]
一度立った噂は中々消えない




「うわっオマエ、微妙に有能でムカつく」


とは、修行中である私、名前ちゃんの手元を覗き込んだ香燐ちゃん談。


「ムカつくはこの際スルーするとして、微妙に有能ってどういうことです?」

「医療忍術、それって大蛇丸様に直々に教わってたりすんの?ムカつくー」


大蛇丸さんじゃなくてカブト君に教わったんだけど、まあ似たようなもんだろう。あえて訂正はしない。大蛇丸さんにも時々教えて貰ってたし。

「個人的には、もう少し有能になりたいというか、瀕死のお魚ピチピチさせられる程度じゃまだまだかなあというか」

「ふーん?でもそこまで出来るってことは、チャクラコントロールはほぼ完璧ってことだろ?じゃあ後は練習積むだけじゃねーの」

「あ、でも未だに分身の術は出来ないんデスよね」

「意味わかんねーよ!なんでだよ!」


ここ数日、私の目論見通り香燐ちゃんの態度は随分と軟化した。私がライバルではないことを理解したというより、私の(粘着質な)お友達になりましょうよアピールに対して、いちいちトゲトゲした反応を返すのに疲れたらしい。

ここで「無視する」という反応が選択されないあたり、香燐ちゃんは香燐ちゃんだ。



「しっかし、オマエみたいなのが大蛇丸様の愛人ねえ…」

ちょっと待ってーっ!


なんだろう、こんな感じのやり取り。前にもやったような。



「なんですって?私が?誰の?」

「…………違うのか?」

「違います!ブロッコリーとカリフラワーくらい違います!」

「割と似てんじゃん」

「その辺りは若干全否定しきれない点が散見されますので」


初ちゅーを奪われたことは未だに根に持っている。あと、囲われているというのも事実ではある。しかし。しかしだ。


「愛人ってのは断じて違います!マジで!そういうアダルティなあれこれとか一切!無いですから!」

「ふーん」

「興味無さそう!」


っていうか、この「名前ちゃん大蛇丸さんの愛人説」、否定しておいてってどこぞの液体人間に言っておいたような。
まさかとは思うけど、流言を否定するどころか積極的に広めてないか?


「……やりかねない。あの子ならやりかねない」

「あの子?」

「このアジトに来てるって言ってましたね?よし探しに行きましょう!」


すっくと立ち上がった私に、香燐ちゃんは呆れた目を向ける。

「その、医療忍術の宿題とやらはどーすんだよ」

「ノンノン、香燐ちゃん」

香燐ちゃんの肩をがっしと掴む。嫌そうな素振りを見せたけど、気付かないふりは私の十八番だ。


「宿題なんてのはね、サボるためにあるんデスよ?」

「駄目じゃん」

「よし、香燐ちゃんも一緒に行きましょう!私このアジトまだよく分かんないし」

「あっおい!勝手に決めんな!」


明らかに乗り気でない香燐ちゃんを引っ張って、廊下へと出る。
そういえば香燐ちゃんはアジトの看守。つまり、大抵の牢屋の鍵は持っている。もしかして名前ちゃん、めっちゃくちゃ心強いパーティメンバーを手に入れたのではなかろうか。



「ばっかお前正気か!?囚人を勝手に外に出すとか大蛇丸様に殺されるぞ!」

「だーいじょうぶですって。もし香燐ちゃんが見つかっちゃったら、全部私のせいってことにしとけば良いですから」

「…………お前って、ほんとに大蛇丸様に気に入られてるのな」

「ええ、何故だか。いやでも、私も最初は色々考えてたんですよ?うっかり殺されたりしないかな?みたいな」


のろのろ歩きの香燐ちゃんの手を引いて、私はさっさと廊下の奥へ歩みを進める。道は分からないが、たぶんこっちだ。たぶん。根拠はないけど。


「いやあ、来た頃は中々スリリングでしたね。何したら大蛇丸さんが怒るか分かんないし。蛇の尾を踏むチキンレース的な」

「で、今のふてぶてしさに落ち着いたわけか」

「あ、これは平常運転ですね」

「あーそうかよ……って馬鹿!そっちじゃねーよ!」

右に曲がろうとした私の襟首を掴んで、香燐ちゃんは左の道へと誘導してくれる。


「お前、道わかんねーのに何でそうさっさと先に行くんだよ!探索ならウチに任せればいいだろ!」

「あら親切」

「うっせー!で、誰を探しに行くんだよ」

「水月君」

「げっ」


そういえば、水月くんと香燐ちゃんは仲が悪いんだったか。ただでさえ乗り気じゃないのが、更に乗り気じゃなくなったらしいけど、そんなことはまあ当然関係ない。


「そう嫌な顔せずに。場所だけ教えてくれたら良いですから」

「アイツと仲良いのか?」

「え?あ、うーん、いや、仲良い……いや、仲良くは………あーいや、うーーーーーん……」

「迷いすぎじゃね?」

「ほんとに微妙なラインなんですよねえ」


仲悪いってわけじゃないんだけど、決して仲良くもない。たぶん向こうもそう思ってるだろう。それはそれで程良い距離感だから良いんだけど。


薄暗い廊下に、2人分の足音だけが響く。足早な音が香燐ちゃん。その後を付いて行く音が私。




「……なんつーか、お前……ここにいて、よくそういうスタンスでいられるよな」

「なんか変ですか?それより歩いてるうち暇じゃないです?歌でも歌いますか?」

「………………よくそういうスタンスでいられるよな……」

香燐ちゃんの声に、若干呆れのニュアンスが混じったのはあえて無視する。

こういうスタンスを貫くのはある種の意地だし、意地を張るのは得意なんだ。



「命〜短し〜恋せよ乙女〜」

ホントに歌うのかよ!という香燐ちゃんのツッコミが、耳に心地良い。

私が歌っている間、香燐ちゃんは無言で。
時折廊下の隅の鉄格子の向こうから低い呻き声が聞こえてくるほかは、音を立てるものは何もいなかった。




(ところで、水月に何か用なのか?)
(いえ、ちょっとクレームをつけに)
(は?)

[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!