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負けず嫌いって顔に出る




空が青い。


「良い天気ですねえ…」

木の枝に逆さまにぶら下がったまま、抜けるような青空を眺める。別に、のんびり気ままな時間を過ごしているわけではない。これも挑発の一環なのだ。

ヒュン、と風を切って飛んできたクナイを、上半身を軽く反らしてギリギリのところで避ける。


「中々当たりませんねえ、サスケくん」

「チッ……」

そう、今まさに私は、サスケくんに世の中の厳しさを叩き込んでいる最中なのだ。

提示したルールは「時間制限」

つまり何本クナイを使っても構わないが、決められた時間内に私にクナイを当てることが出来なければ私の勝ち、ということだ。



「あっはっはっは!誰でしたっけぇフン…すぐに終わる(低音ボイス)なぁんてカッコつけてたのは〜?」

「黙れっ!」

ふふふ、カッコつけたのにカッコつかないってのが一番恥ずかしいのは分かっている。存分に恥ずかしがるが良い!!!気恥ずかしげに苛立ってるサスケくんめっちゃ可愛い。

ニヤニヤを抑えつつ、私はくるんと半回転して、脚を掛けていた枝に座る。サスケくんは、ただクナイを投げても当たらないと踏んだらしく、こちらを睨みつけながら作戦を練っているようだ。

すなわちこちらも、頭をつかって避けなければ危なくなるということだ。



「さあ、制限時間まであと3分ですよ!ちょっとでもかすればオッケーなんですから、頑張って下さいね!」

挑発すればすかさず、足元にクナイが飛んでくる。今度は陽動か?と注意しつつ避けると、やはり、死角から空を切る音が追い掛けてきた。


「おわっとお!?」

すんでのところでそれを避けると、避けたクナイが空中で分裂し、また襲いかかってくる。

なるほど、クナイに武器口寄せの印を仕込んでいるらしい。投げたクナイから次々に新しいクナイが「口寄せ」され、上から下から背後から、あらゆる死角を突くように襲いかかるということだ。


「いけると思いました?でもね!」

このパターンは、次々に増殖しながら迫ってくる、デイダラくんの蜘蛛型爆弾で学習済みだ。小さな動きで避けているといずれ追い詰められるので、一度大振りな動きで避けてしまえば良いのだ。
今回のパターンだと、口寄せの術式が書かれてあるクナイさえ視界の真ん中に捉えてしまえば、死角を突かれる心配はない。



「それだけじゃない!」

サスケくんが吼える。と同時に、着地した地面から嫌な振動が伝わった。

咄嗟に身を捩る。地面が盛り上がったかと思うと、無数のクナイが全方位に弾け飛ぶ。

「あっっっぶな!」

多分かなり早い段階で、この仕込みをしていたんだろう。地雷式の武器口寄せだ。サスケくんとしては保険のつもりで仕込んでいたのかもしれないけど、どうやら上手いこと地雷地帯に追い込まれたらしい。

慌てて木の陰に身をひそめるが、地雷から飛び出したクナイにも武器口寄せの術式が仕込んである。


「さあ、これを避けられるか?」

「やりますね!でも、まだまだ!」

逃げ場は、木の上だ。枝が障害物となり、サスケくんの視線とクナイの射線を遮ってくれる。

身を隠した木にそのまま登り、枝葉の隙間からサスケくんの次の手を伺う。


−−しかし。


「甘い」

サスケくんが、にやりと笑った。ぞわり、と嫌な予感が背中を駆け抜け、私は本能のままにその場から飛び出す。
視界の隅に無数のクナイを見たかと思うと、それらは一瞬前まで私が居たまさにその場所に突き刺さった。

(枝の中に、口寄せの術式を仕込んでいたんだ!)


そしてまんまと視界の開けるところに飛び出した私に、今度はサスケくん本人が投げた−−つまり、極めて狙いの正確なクナイが飛んでくる。


「当たって、たまるかあっ!」

空中で可能な限り回避動作を取る。しかしてクナイの直撃は免れた。が。



「く〜〜〜っそう!」

襟元と両袖を木の幹に縫い付けられるかたちとなり、私は見事に動きを封じられた。文字通り、まな板の上の何とやらだ。


「ふん、無様だな。挑発ばかりしているからこうなる」

「まだ勝負はついてませんけどね」

サスケくんは目を細めると、これをとどめにと、手に持っていた1本を投じた。



(ああ、サスケくんって本当に、優しい子)

そのクナイは、頬を僅かにかするように、最小限の傷だけしかつけないように投ぜられた。
あんなに挑発したのに。あんなに苛々していたはずなのに。それなのにこの子は、まだ私のことを気遣っている。追い詰めて、動けなくした相手には必要以上の傷を負わせないように。

そうだ、この子はこういうことを考えられる子なんだ。
なんて、なんて優しい子なんだろう。






まあそんな事は全然関係無いんだけどな!!!


甘いんデスよオラァ!

掛け声一発、飛んできたクナイを蹴り落とす。

「私を狙うならど真ん中!どうあっても避けられないところ狙わないと、最後の最後で取り逃がしちゃいますよ?サスケくん!」

「…………良い度胸だ」


サスケくんがクナイを構えなおす。しかし丁度その瞬間。




「残念だがサスケくん、時間切れだよ」


瞬身の術で姿を現したカブトくんが、サスケくんの手首を掴んだ。

ハッとしたようにこちらを見るサスケくん。にやりと笑ってみせると、眉間のシワがより深く刻まれる。

「残念でしたねえサスケくん」

「……………………」

イヤ〜な表情のままこちらに歩み寄り、無言でクナイを引っこ抜いてくれる。自由になった両手をぷらぷらさせながら顔を覗き込むと、何というか、とても例えづらいのだけど、第2部のサスケくんというよりは、第1部寄りの可愛らしい表情になっていた。





「…………今のは俺の勝ちだろ」

そして投下される、問題発言。



「はあ?いやいや時間切れですよ、サスケくんの負けです」

「状況的に見ればお前の負けだ。あと一投で勝ってた」

「あっ言い訳してやーんの!その前の一投で仕留め損ねたくせに!」

「お前も追い詰められてただろ!」

「時間切れに合わせただけですぅー!もっと粘ろうと思えば粘れましたぁー!」


「はいはい2人とも、喧嘩しない」

カブトくんが仲裁に入るが、明らかに楽しんでいるのが分かる。

「カブトくんからも何か言ってくださいよ!時間切れなら私の勝ちですよねえ?」

「うーん、実力ではサスケくんの方が確実に上なんだけどね」

「そりゃそうですよ!私は回避しか能がありませんからね!」

「あ、そこは認めるんだ」

「で、判定どうなんです」


カブトくんは、私とサスケくんとを交互に見やったあと、とても良い笑顔でこう言った。


「名前の勝ちだね」



流石はカブトくんとしか言いようがない。サスケくんの、それだけで人が殺せそうな視線を軽く流しつつ、これは大蛇丸様にも報告しなきゃなあなんて揚々と呟いている。

「……カブト、恨むぞ」

「恨まれるのには慣れてるんでね。でも正直なところ、結構実になる修行になったんじゃないのかい。彼女、案外良い動きしたじゃないか」

「…………ふん」


兎にも角にも、第三者が私の勝ちと判断したんだから私の勝ちだ。サスケくんとの修行は1勝0敗。幸先の良い出だしと言える。


「さあではサスケくん、私が勝った場合の条件、覚えてますよね?」

「賭けなんてしてたから、判定にこだわったのか……サスケくん、何を賭けたんだい?」

「うふふ、それは私から教えてあげましょう」


私が負けた場合は、引越しが終わるまでと終わってから1週間、サスケくんにちょっかいをかけないという約束。

そして私が勝った場合として、私からサスケくんに出した条件は。



「私が勝ったら、サスケくんの同意のもとで、サスケくんのお部屋のエロ本を捜索させてもらう!です!」


心底呆れ返ったカブトくんの表情も、想定内だ。むしろこの場に大蛇丸さんが居なかったことが悔やまれる。


「………………サスケくん、なんか、ごめん」

「……良い、全てはあいつが悪い」

はっはっは。後悔は後にも先にも立ったところで役には立たないのだ!
まさかマジでエロ本が見付かるとは思っていないが、こういうのは実行することにこそ価値がある。


「じゃあサスケくん、約束は守ってもらいますからね」

気落ちした肩をポン、と叩くと、サスケくんは肺の中の空気を搾り出すほどの深い深いため息をつく。
その横顔がお兄さんに似ていて、私は更に数倍、楽しくなったのだった。




(ちなみに大蛇丸様に報告したら、爆笑していらっしゃったよ)
(さすが)


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あきゅろす。
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