片付けの途中で昔のジャンプ見付けたら詰む。 「荷物をまとめなさい」 大蛇丸さんが放ったその一言は、私にとっちゃ今年ナンバーワンびっくり発言大賞だった。 荷物をまとめる。それはつまり、ここを出ていけと言われているのか。 しかし私のその予想は、次の一言に見事に打ち消された。 「何を嬉しそうな顔をしてるのよ。アジトを移動するわよ」 「お引っ越しーお引っ越しー」 即興で作った訳の分からない歌を歌いながら、私はカブトくんが本やら薬品やらをまとめる様子を眺めていた。 私個人の荷物は僅かなため荷造りは早々に終了し、手伝うという名目でカブトくんに張り付いているというわけだ。(ただ、手は全く動かしていない) 「しかし大蛇丸さんも大変ですねえ。しょっちゅうお引っ越ししてるんでしょ?」 「用心するにこした事はないからね」 「その度に荷物とか運んで」 「仕方が無いさ。それに、転送忍術が完成したから前より楽だし」 「テンソウ忍術?」 頭の中で咄嗟に漢字変換が出来なかった。テンソウ……転送、か。 「雲隠れが研究していたものの応用でね、器具や実験材料を封印した巻物を、移転先のアジトに直接転送するんだ」 「へ?それって時空間忍術ですか?」 「いや、時空間忍術というより口寄せに近い……………………時空間忍術なんて、またマイナーなものを知ってるね」 「あ、いや、あはは」 時空間忍術ってマイナーなんだっけ。 どうにも、漫画を読むのと実際にその世界で暮らすのとでは、価値観や一般感覚にズレが生じてしまう。前から分かってたことだけど。 「転送忍術かあ。覚えたら便利そうデスねえ」 「教えてあげようか?」 「あら親切」 「部下は有能な方が良いからね」 「は?部下ってなんですかいつの間にそんなことに」 「大蛇丸さまの許可も取ってあるよ」 「なにィ」 じゃあ私、立場的にはカブトくんより下っ端ってこと? なんかムカつくなあ。今度大蛇丸さんの目の前で、カブちゃんって呼んでやろう。嫌がるだろうなあふふふ。 「……まあ、スキルアップはしてて損はないですし教えてもらえるならそっちの方が」 「素直に、教えて下さいって言ったら?」 あー、やだなあコイツの部下になるの。性格悪いのが顔に出てるよ。 いやでも、正直カブトくんも同じようなこと考えてるはずだ。コイツ部下にするのやだなあって。 自由に命令出来るのは良いだろうけど、如何せん私は素直に言うこときくタイプではないし、今だってカブトくんはちゃんと引っ越しの準備してるけど、私は椅子を斜めに傾かせながら、足をぶらぶらと泳がせているわけだし。 「ま、そーですね。教えてくださいカブトせんせー」 「……じゃあまず名前、部下としてここの荷物を片付けるの、手伝ってもらおうか」 「キリンさんが好きです」 「さっきから全く手が動いてないよね?」 「でもゾウさんはもっと好きです!」 舌打ちとともにクリップボードが飛んできたけど、ひょいとかわす。甘い。 「……キミの上司をこなせるか、自信が無くなってきたよ」 「大丈夫デスよ自信持ってカブトくん!あの大蛇丸さんの部下をこなしてるんですから、いけるいける!」 「上に大蛇丸さま、下にキミって、すごい嫌がらせだよね」 「あっ今の発言、大蛇丸さんに告げ口してやろ」 「……………………手伝い免除」 「さっすがカブトくん、話が分かるぅ」 物凄くうざったそうに睨まれたけど、前みたいな冷たい視線じゃないだけ笑い話にも出来るってもの。 ではサスケくんのとこ行っておやつ食べてきますねーと、早々に部屋を抜け出せば、カブトくんの大きなため息だけが背中を押して消えた。 (サスケくーーんおやつ食べましょーー) (ノックくらいしろ!) [*前へ][次へ#] |