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春の善き日に



ぐっもーーーにんサスケくーーーん!!

両手で思い切り布団をはいでやれば、鋭い手刀が飛んできたけど気にしない。すらりと避けて掛け布団をベッド脇に放り投げる。

「ほらほら今日も、朝からしゅぎょーでしょ!さっさと起きる!」

「……うるさい」

「早くしないと、可愛い可愛い寝起き顔をガン見しちゃいマスよー?」

今度はクナイが飛んできたけど、サスケくんに取り返された布団を再び剥ぎ取る作業の片手間で避ける。私に攻撃を当てようなんて、百億万年早いのだ。ふははは!

……と、こんな一方的なやり取りが、サスケくんがこのアジトに来てから今日で3日、今のところ順調に続いている。



「キミが来てから、朝が楽で助かるよ。サスケくん、どうにも寝起きが悪くてね」

「血圧低いんでしょうかねえ。それよりカブトくんどうしたんです。アナタともあろう人が私を褒めるなんて」

「別に褒めちゃいないけど。楽で良いなあってさ」


中庭で修行に打ち込むサスケくんを遠目に眺める。吹き抜けの中庭には柔らかな春の日差しが射し込んでおり、久々に日にあたるせいか、少しだけ眩しい。

大蛇丸さんが私を側においておかないなんて、珍しいこともあるものだ。
ここでサスケくんの修行を見ておくようにと言って、大蛇丸さんはどこかに行ってしまった。優先させたい実験か何かあったのかも知れない。カブトくんですら、ここで待っておくように言われていた。ひとりでやりたい実験なのかも知れない。

大蛇丸さんは、よく分からない。


それからしばらく修行は順調だったけれど、突然、サスケくんの千鳥が、ぱちんと弾けた。まだ上手く形態変化が出来ないのか、時折こうして暴発事故のようなことが起こる。
私はちょっとカブトくんに目配せをすると、地面に投げ出されたサスケくんに駆け寄った。

「サスケくん、だいじょぶですか?」

「…………」

「ありゃ、無視ですか。まあ良いや。ほら腕、怪我してるじゃないですか、治してあげますから腕出して」

「…………お前が、治す?」


あっ「何言ってんだこの馬鹿女」って顔した。確かに対人治療は初めてだけど、もうそこらの医療忍者並みには出来る……筈だ。

とか考えていたら、後ろから後頭部を思い切り引っ叩かれた。犯人はわざわざ確認するまでもない、カブトくんだ。


「サスケくんの治療にはボクがあたる。キミは引っ込んでてくれ」

「えー何でー」

「いずれは大蛇丸様のものになる身体だ。キミみたいなのに任せる訳にはいかないからね」


うわ、それ本人の前で言うか。いくら本人の了承が得られてるとはいえ、デリカシー無いなあ。

「しょーがないですねえ。しかしそうなったら、私の医療忍者の練習台が中々確保出来ませんね」

私の呟きは、サスケくんの治療に専念し始めたカブトくんの耳には届かなかったようだ。届いてたのを無視された可能性もあるけれど。

カブトくんの治療を見ていると。当たり前のことではあるけれど、やっぱり私のよりもずっと丁寧で正確だ。
薄緑に光るチャクラが傷口を包み、あっという間に治していく。

「……サスケくんっていつもこうして、ひとりで修行してるんです?」

「いや、囚人たちを相手にする方が多いし、大蛇丸様自ら相手をされることもある」

「ふーん…」


ふと、ひらめいた。


「ねえサスケくん、私と一緒に修行してみません?」

「はいはい馬鹿言わない」

「あっカブトくん口挟まないで下さいよ!私はサスケくんとお話してるんです!」

カブトくんに真正面から頭を押さえつけられ、ばたばたと無駄な抵抗をする。くそーインテリ気取りのくせに、私よりかは力強いから腹立つ。

「もやしメガネのくせに」

「…………」

「ふっふっふ、カブトくんは何だかんだ貧弱ですから、アイアンクローされても怖くないですもんねー。鮫さんとかだったら頭グシャされる危険性がありますがって痛たたたたたたストップ!ストップ!


こいつ!力でねじ伏せられないからって、指でピンポイントにこめかみ狙って来やがった!そんなの痛いに決まってるだろ!


「カブトくんは手法がいやらしい!こすい!えげつない!」

「貧弱なもやしメガネのアイアンクローは怖くないんじゃなかったのかい?」

「これは厳密にはアイアンクローじゃな、痛い痛い痛いギブギブギブ!」


あーくそ、カブトくんに負けるとすっごい悔しい。大蛇丸さんに告げ口してやろう。

……って、そもそも何の話してたんだっけ。


「…………あ、サスケくん」

気が付けばサスケくんは、既にこの場から姿を消していた。
こんなうるさいところで修行なんてしてられないと思ったのか、面倒なのに巻き込まれる前に逃げたかったのか、どちらにせよ原因は私にあるのだけれど、人のピンチを無視してどこかにいくなんて、なんて薄情な。


「ま、良いや。運動がてらにサスケくん探して来よう。逃げたら追い回す」

「可哀想に…」

カブトくんが、心底同情したという声で呟く。そこは仕方がない。私は退屈なんだ。




「サーースケくーーん!やっほー!」

「チィ…!何故ここが…」

「ふっふっふ!私の魔の手から逃げようとは、良い度胸ですね!」

自分で魔の手とか言っちゃった。


じわりと汗ばむ春の陽気の中、逃げるサスケくんのあとを追い掛ける。
大蛇丸さんに見付かっても、修行の一環だと言っとけば言い訳は立つだろうし、バテるまで追い掛け回してやろう。

「さあサスケくん!捕まったらハグハグの刑ですからねー!」


この後、騒ぎを聞き付けてやってきた大蛇丸さんに私が捕まり、ハグハグの刑を執行されたのは、カブトくんには絶対内緒だ。



(名前、あなた抱き締め心地が最高ね)
(それ、どっかの誰かにも言われたような…)



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あきゅろす。
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