FLAME−HERO
4

「ハイッ!………どうやら、遂に必殺技を使う時が来たようですね……」

フォーコは緊張感にゴクリと唾を飲んだ。Ζが視線を僅かに向けてくる。そして前へと向けながら、言い放った。

「ならば見せてみろ。」
「……ハイッ!!」

フォーコは大きく頷いた。そして迫り来る不気味な肉塊を睨み付けつつ、右手を天に高く掲げる!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


裂帛の咆哮と共に気合いを高めてゆく。大気がビビビと震える。


――――そして!!!



「超!召!!喚!!!」



轟ッと叫んだ。次の瞬間!



ボゴーーーン!



ドギツイ紫の地面から………手が、二本の腕が、紫を突き破って突き出した!
それはそのまま地面を掴むとボゴボゴボゴと姿を現してゆく――――棘や刃物だらけの全身、頭部を覆う“血”と描かれた箱……殺人鬼ブラッディハグだった。

「どうですΖさんッ!」

喜々と振り返る。其処に居たヒーローは召喚されたソレを凝視しながら………ガラーンとバールを落っことした。

「………ちょっと待てフォーコ。」

愛器を拾いつつ言った。どういう事だと。



――――あの日、あの時。



その場のノリで“殺人鬼ブラッディハグを倒さず、彼が二度と殺人をせぬよう監視下におく”という事になったのだが………

当然、ヒーロー協会は黙ってはいなかった。

そしてフォーコは協会の指示に従い、遂にはブラッディハグを打ち倒した………



と、いうのがΖが知っている事であった。



フォーコ、説明してもらおうか――――と思ったが、今はそれどころではない。いよいよあの不気味な肉塊達は眼前に迫りつつあった。

「話は後に聴く。今は………此奴等だ。」

バールを握り直す。ハイッと背後から返事。

そしてΖは飛び出した!

一瞬で間合いを詰め、物言わず不揃いな腕を伸ばしてきたソレの頭部と思しき所にバールの角を叩き込む。ぶちゅっと熟しすぎた果物を叩いた様な感触、音。飛び散る紫のねばりとした液体。異様に獣臭かった。
それに僅かな不快感を抱きつつも、振り向く様に鈍器を振り払う。肉塊達はどれも脆く、紫の肉は簡単に抉れて体液を飛び散らかした。
数こそ多いが、どれも動きは緩慢で脆く、弱い。問題ないな――――思いながら、Ζはバールをヒュンと振るった。

一方、フォーコもそれなりに頑張っていた。……ブラッディハグの応援を。
流石は殺人鬼、躊躇いも恐れも無く凶器そのものの腕を振り回す。その度に紫の肉塊が千切れて砕けて飛び散ってぶちまけられた。
ブラッディハグはその剃刀の様な指で引き裂いたり、或いは腕力に任せて棘の拳を叩きつけたり、4、5体をまとめて抱き締め殺したりとΖに劣らぬ成果を上げていた。

瞬く間に肉塊は地面を汚す紫のジェル状のモノとなってゆく。

勝利は時間の問題――――と、フォーコは息を吐いた。背後の異様に指が長い肉塊に気付かぬまま。
そして次の瞬間、肉塊はその長い指をフォーコの首に絡み付けた!

「っくハッ!?」

しまった――――と思った時には既に、関節が無いらしい紫の指はロープの様に巻き付いてフォーコの気管と血管を絞め上げる。

しッ………死ぬ!!

指が肌にめり込む痛みとぐちゅりとした感触と、“首を絞められている”という状況と、酸欠で意識を手放そうとする脳味噌力の抜けてゆく体と端から黒くなってゆく視界と……“死にたくない”という本能と。

「〜〜〜〜〜ッッっ!!!」

無意識に。
フォーコは暴れるように拳を振るった!

どちゃっという柔らかいモノを叩き潰した様な感触。同時に首の指が緩む。

「……ゲホォあッ!!」

慌てよろめきながら飛び退き、咳き込んで咳き込んで酸素を確保しながら振り返った。
ボヤーッとする脳で捉えた光景は、………焦げてブスブスと沈む肉塊。

「がふぉっ ん゙ごフッ……はあっ、はーッ………」

何が何だどうなったハウメニーハウロングアゴー?咽が痛い。焦げてる……嫌な臭い。

「…ん?」

その時ふと、肩をちょいちょいつつかれてフォーコは振り返った。ブラッディハグが居た。彼の肩越し、もう肉塊は見当たらない。“全部やっつけたんだけど”という事らしい。お疲れ様ーと痛い咽をさすりながら言った。
そこへ、バールで肩をトントン叩きながらΖが歩み寄って来た。その背後にも最早ソレは居ない。

「フォーコ」

一言、溜息の様に名前を呼ぶ。

「言いたい事は三つだ……。」

フォーコは頷いた。緊張に身を強ばらせる。ブラッディハグはのんびり佇んで居た。

「一つ目。………さっきのはどう見ても必殺技ではないだろうお前…。ヒーローならば己の力で戦え。いいな」

若干、いや結構呆れた様な口振り。この人もつっこむ時はつっこむんだなと密かに思いつつ、了解ですすみませんでしたとフォーコは答えた。
それから、Ζの深い溜息。バールを持つ手をだらりと下ろす。紫の光に、それはとても禍々しく見えた。
そして徐に………フォーコの傍ら、殺人鬼をバールで指した。やっぱり、とフォーコは唾を飲む。

「二つ目。……何故ブラッディハグが此処に居る?」
「すみませんΖさん、…僕のエゴです。」
「ほう。」
「……実は彼のこと逃がしてたんです、………あの時。」

ゆるゆるとフォーコの視線が下がる。


あの時、あの場………廃墟のラブホテルにて。


「だからか……小心者のお前がやけに意気込んで“一人で倒すから先に帰ってくれ”などと言ったのは。」
「すいません……」

ふむ、と手の中でバールを一回転させてΖは頷く。俯くフォーコを見、それからブラッディハグを見遣った。


――――確かに彼は“犯罪者”だから裁かれるべきで、自分もその通りだと思う。
だと言うのに、無かった。自分には………“裁く勇気”、が。


(だから逃がした、か。)

そう思ったΖはそれ以上を訊かなかった。

「では三つ目だ。一度は逃がしたブラッディハグを何故呼び出した?私が必ず言及すると解っていた筈だろうに。」
「…あの……、ブラッディハグがもう悪い事をしないって、さっきの事で示せたら………味方だって示したら………その、いいかなぁ、なんて……」

フェードアウトな口調でフォーコはそう言った。Ζは何も言わなかった。


確かに、今の戦闘を楽に切り抜けられたのはブラッディハグのお陰だろう。フォーコは戦闘が出来ない。あの数全てをΖが相手にしていたら時間もかかっただろうし疲労も蓄積しただろう。
それにこの先、パープルホリックとの戦闘に於いてもブラッディハグは大いに役立ってくれるだろう。


ふむ、と呟いた。
フォーコめ、なかなか侮れんな。敢えてブラッディハグを見せる事で、この私を“味方”に引き入れるとは。
見かけだけの哀れな一般人だと言うのに……。フォーコを見据えた。目が合った。

「……解った。」

ゆっくり、だがしっかりと呟いた。
瞬間、フォーコはパッと笑顔を輝かせた。ありがとうございます!!と頭を下げて。

「ところで、フォーコ。実はもう一つ訊きたい事がある。」
「な、何ですか」
「……何故、奴は地面から。そもそも何故呼んだら来たのだ。」

実は一番聴きたい事であった。

「あ、実は僕、ブラッディハグどなんか…何でか凄く仲良くなりまして、そうしたら彼が僕をストーキングするようになったんです。いつも近くに居るんですよー。“だって友達だもん”って、彼が。ははは」
「………あぁ……そうなのか……。」

何だかまだ、いや寧ろ一層モヤモヤするが、Ζは頷いておいた。

そんな中、ブラッディハグは“初めてできた友達”を少し見てから………“二番目にできた友達”を眺めていた。

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