FLAME−HERO
1




――――ハッ、と目が覚めた。




(………ここは……どこだ………?)


脳味噌がボンヤリする。眠たい…意識が緩い……剰りにも睡眠を摂り過ぎた時の様な……。


嗚呼……起きなくては、こんなに真っ暗。電気を点けないといけない。一体何時間ぐらい眠っていたんだろう。……一体いつから眠っていた?

意識がドロリ、ドロリ。

ぐるぐる、まるで溶けたキャンディみたいで、なんにもなんにも思い出せない。
そんなことより、再び浮き上がってきたひどい睡魔に身を任せてしまえと脳が囁く。抗い難い甘き誘い。

あーどうしよう、どうしようか…、……駄目だ、起きなきゃ………。



「おクスリのお時間です〜」



パッ、と――――


そんなおどけた口調と共に電気が点いたのは、そんな時。

「ウッ!!」

男は網膜に容赦なく突き刺さった眩しさに瞼をグゥと締め付けた。
暗転、或いはチカチカとする視界の中、先程の声の主だろうか……コツッ、コツッ、コツッと近寄ってくるブーツらしき足音がする。
……あぁ、いや、そんな事より。そんな事よりも。

(手が、足が、………体が、動かない!?)

そうまるで
雁字搦め。
椅子に、きつくきつくきつく。

「マブかったですか?ゴメンナサイです〜。でもおクスリのお時間です〜」

剽軽な……女の声は、すぐ目の前に。顔を見下ろしている?サラサラした髪の毛らしき感触が頬を撫でる。

「ぐっ………なん、だ?誰なんだ?」

やっと目が慣れてきて、ジンジンする眼球をこじ開ける。

「“誰なんだ”ですか?ワタシ様のコトですか?そうなんですか?」

コンクリートの地下室、椅子に鎖や皮やらで雁字搦めにされている全裸の男の目の前。
くるりと回ってニコリとしたのは………ピンクに近い薄紫のロングヘアーと同色の口紅をした女。胸元や足元が挑発的に開いた黒皮のドレスを纏った身体は婀娜っぽく、歩く度にロングブーツが床をコツンと鳴らした。窺えない目元がミステリアスを醸し出している。



「サイコキラーのパープルホリック様と皆々様お呼びってるです〜」



んふふ、笑う。

「……サッ、サイコキラーだと!?ならば“コレ”は…お前の仕業か!畜生放しやがれ!!俺をどうする気だ!!!」

何とか緊縛から逃れようと身を捩る男は殺人鬼パープルホリックを怒鳴りつけた。彼女は吃驚した様に肩を竦めて口を手で覆う。

「さっき言いましたです〜。覚えてるですか?んふ〜、“おクスリのお時間です〜”」

言いながら、彼女は。
紫色の可愛らしくデコレーションされた救急箱を取り出した。

「な、んだ……!?何をする気だッ」

パープルホリックは男の問い掛けに全く応じず、開いた救急箱から………これまたキラキラとデコレーションされた注射器を。まるでアニメに出てきそうなショッキングピンクの液体が入った注射器を、その細い手に持った。

「ッッ………!!!」

“これから何をされるか。”
見れば解る。直ぐに解った。嫌でも解った。

注射器の水色をした針が、コンクリート部屋の剥き出し蛍光灯にギラリンと輝く。ショッキングピンクの液体も、デコレーションのプラスチック玉もキラキラキラキラ。逆に恐怖心を煽った。その“無邪気”故の“無慈悲”に。幼い子の指に摘まれた蟻の様な気分だった。

「やめっ、……あ、ヒィッ…!やめ、やめろ、よせやめろやめてくれ!!!」

近づいてくる。針が。得体の知れぬモノが。恐怖が狂気が。鼻歌と一緒に。

「ちょっぴりチクッとするです〜」
「い、嫌だ!!嫌だ!!嫌だ!!嫌だ!!嫌だ!!嫌だ!!嫌だ!!嫌だ!!」

もがく。もがく。もがく。

だが堅く堅く固定された腕は身体はビクともしなくて。

「やめろ嫌だやめろやめやめうわああああああああああああああああああ!!!」

泣いても喚いても、――――ぷつり、針が刺さる。チクリと痛覚。そしてあのショッキングピンクが、身体の、中に。


死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない


最早音の出ない口から、無音の悲鳴が掠れ出る。


「はいオシマイです〜」


楽しそうに笑いながら、パープルホリックは注射器を救急箱に仕舞い込んだ。それから次に、派手に飾られた栓付き試験管を手に持つ。やはり毒々しいオレンジ色の液体が入っていた。
それを、放心状態の男を縛る鎖に皮にポタポタ垂らした。
一通りのそれらに垂らし終えると、流れる動作でコルク栓を閉める。救急箱に仕舞う。救急箱をバチンと閉める。

「あのねですね〜」

踵を返し、ドアへ向かいながら。

「さっきキサマ様に施しましたお注射ですね〜、ポイズン様です〜。身体がちょっとずーつちょっとずーつ蕩けてイッちゃう猛ポイズン様なのです〜。」

ドアノブに手をかける。振り向き、紫の唇で綺麗な三日月を描いた。

「………!」

なんだって。
男は愕然と呆然と目を見開いた。垂れた涎が顎を伝った。

「でも大丈夫です解毒剤あるです〜。………ソコのヒトの肝臓に埋め込んであるです。」

パープルホリックが指さした。
よく見れば、前方。自分を拘束している椅子と同じ物、自分と同じく縛られた全裸の男。自分と同じく目を見開いて、居た。

「チナミにですね、ソコのヒトに施しましたポイズン様の解毒剤もキサマ様の肝臓にあるです。」


んふふっ。


笑う。じゃあね、手を振り退室しながら。



ばたん、…。



ドアの閉まる冷たい音が、コンクリートに響き渡った。
男二人は目を合わせる。


……瞬間。


あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!


暴れ狂った。先程、パープルホリックが垂らした劇薬で脆くなった鎖や皮を引き千切って。



そして、溶けだした細胞を撒き散らしながら



互いに飛びかかる――――……



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