FLAME−HERO
1



――何とはない、いつもの街。いつもの日。いつもの喧噪。いつもの空。何処にでもある昼下がり。



「あーーもーっ、またパープルホリックとハッピーフラット取り逃がしちゃったよっ!!」
「……」
「え?『まだ遠くには逃げてないハズだ』って?合点了解ーー!」

ヒーローとしての活動を始めた切り裂き魔と思念体が路地裏を駆ける。足音。何の変哲もないハンマーを持った毒殺殺人鬼が逃げる為に駆ける。

「ま、全く〜お昼はホントにポンコツ野郎です〜!」

行く先は何処。足音が遠ざかる。





「ふわ〜ぁ……」

我ながら間抜けだろうなと思う程、大欠伸。手持ち無沙汰に開いたケータイの簡易ニュースに風のヒーローが何やら活躍したとかいう話題が流れていたような。
彼が立つのはコンビニエンスストアの駐車場、まったりと常々しい昼下がりの日の光をのほほんと浴びてフォーコは安い氷菓をガリッと噛った。ソーダの爽やかな風味。迅速に温度の下がる口の中。きっとベロは青いだろう。
何て事はない、一般人の一般的なノンビリ風景。

「平和っすねー」

等、隣にて壁に凭れている魔女・ミランダへ話しかけたのは間を保たせるというか、沈黙を作りすぎると気まずい心地がしてくるから。
そうね、と浅く答える声がする。頷いて、フォーコは氷菓をもう一口。露出する木の棒。『あたり』の文字はなかった。

「……そう言えば、Ζさんの居場所とか……ご存知ではありませんか?」

不意に口に出してみる。あの日、悪徳の魔女リリーシィを退けた直後に行方を眩ませた黒いヒーロー。あれから連絡は一切無く、姿一つも見ていない。会えない予感はしていた。だが、何処へ。何故。

「そうね……、灰色はどう足掻いても黒にも白にもなりきれないから。正義と悪のバランスが崩れちゃうから、とでも言っておきましょうか。そういう運命だったのよ。貴方も、あの子も」
「……、そうですか」

分かったような分からなかったような、でも妙に説得感があって……一先ず氷菓を一口。崩れそうなのでもう一口。そうすれば手にあるのは棒だけになった。

「あの、ミランダさんは何で僕なんかに魔法をかけたのですか?ずっと気になってたんですけど……やっぱ、その、言い方が悪いかもしれませんが、姉妹喧嘩の手駒……?」

彼女の方は見ず、ハズレの棒をじっと見て。ミランダの含み笑いが聞こえた。

「正義ってモノを欠片でも知って貰おうと思ったから。……っていう今考えた無駄に恰好付けな理由はアリ?」
「理由がないのが理由ですか……」
「話が早くて助かるわ。……ねぇフォーコ、どうだった?貴方が過ごしたヒーローとしての日々は」
「え。……そうですねぇ」

今でもたくさん、本当にたくさん、思い返せる。あの日々。短いようで長かったような。たくさんあった。

「ヒーローになって何かを守る事とか、それの為に戦う事とかして……痛い目にも遭って、怖い事もあって、……うーん。キパッと『こうだ』って言えないですし、はっきり言ってたくさんありまくったからこそ良く分からないけど、」

ミランダへちょっと見返る。

「強くなれましたかね、僕?」
「さぁ?」
「そ、即答……」
「ふふっ。自分自身に訊いて御覧なさいな」

会話はそこまで。半ば強制終了した。
何故ならば――


「金を寄越せ!!」


それはコンビニの中から。ドスの利いた怒声。フォーコが吃驚して振り見遣ってみれば、強盗犯らしき男が店員へ拳銃を突きつけていた。

「うわっ……!?」
「あらまぁ。どうするの?」

ミランダの言葉は他ならぬフォーコへと。

「……、」

息を飲む。どうしよう――なんて脳は思っていたのに、足は先に動いていて。

「ちょっ、ちょっと行ってきますッ!」

ミランダの視線の先。店内へ駆け込むやドロップキックの一般人。

「頑張ってね、正義の味方さん」

薄く笑んで、霞の様に掻き消えた。





「ありがとうございます、ありがとうございますっ……あの、お怪我はありませんか!?」
「あ、いえ、ちょっと殴られて口切ったぐらいですのでお構いなく……!」
「ですが……」
「大丈夫ですよ、いやホント。僕はヒーローですから……なんてね」




***




「あぁもう、悔しい。このアタシが負けるなんて」
「ふふっ。『正義は勝つ』って知らない?」
「『憎まれっ子世にはばかる』って返しとくわ」

姉妹は相変わらずの調子であった。中立の魔法使いはそんな姉達から窓の外へと視線を移す。高い高い所。見渡せないモノはない。

――彼は『素顔を見られた時点でヒーロー失格』と考えており、顔を見られた時点で『正義のヒーロー』から『中立』に戻ると決めていたのだ。いつまでも真ん中の自分がどちらかへ傾く事は許されない。バランスが、秩序が崩れてしまう。

さて。

自分は『中立』であるから、ここから全部全部を見守るとしよう。
今日も変わらず変わり続けるこの美しき世界を。


「……幸多からん事を」


独り言。
静かに祈り、瞼を閉ざした。

暗転、閉幕。




【了】

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