FLAME−HERO
2

コツ、コツ、コツ………と、暗い廃墟の中に足音が二つ響く。
懐中電灯なんてモノは無い。ヒーローとはどんな暗い場所でもモノが見えるのだ。

(ってΖさんは言ってたんだけどなぁ……)

フォーコはΖの漆黒コートを掴み、必死に目を凝らしてみるが……本当にボンヤリとしか見えない。やはり自分はただ魔法でヒーローになっただけの、一般的市民Aだからだろうか。

「本当に……ここにあのブラッディハグがいるんですか?」
「嘘なら今、我々は此処に居ない。」
「………ですよね〜…。」

うう、それにしてもΖさんは堂々としていらっしゃる。ホントに、ホントに本当はすっごいかっこよくってクール&ダークヒーロー!って感じで頼りになる人なんだけどなぁ……

「……。」

不意にΖはピタリと足を止めた。そのままガサゴソとコートのポケットからマップを取り出すと、徐に広げる。沈黙のままずっと眺める。

あ、迷ったんですねΖさん。
そろそろくるんじゃないかと思ってました。
ホント……その絶望的な方向音痴、何とかして下さい…!

三階……?と呟くΖの声が聞こえた。フォーコはリアルに泣きたくなった。
これじゃ殺人鬼云々の以前に、ここで遭難死しちゃうよ……。
思いながら、自分も普通のヒーローみたいに暗所で目が見えたら、と己の無力さに歯痒くなった。そしたら、僕が道案内できるのに。迷子になる事なんてないのに。

「フォーコ」
「はい」
「…三階?」
「四階ですねココ。」
「………ふむ。」

頷き、Ζはキチンとマップを折り畳むと再びポケットに仕舞い込む。その動作の中で、

「伏せろ。」

と、一言。

「え?」

ポカンと首を傾げるフォーコに。
Ζは何の躊躇いも無く、愛器の長バールを振り上げた!

「ウ ッ  ギ ャ ア ーーーーーー!!!」

なだらかなカーブを描くバールの角がフォーコに迫る!……が、間一髪で伏せて躱した。
ヴォンッと空気を猛々しく切り裂く音――――ドつッ、肉にぶち当たる鈍い音。

「ひぃっ!?」

ビックリして、尻餅をつくように振り返ってみた。

そこにはバールの一撃をくらってフォーコ同様に尻餅をついている、何とも奇っ怪な男が――――

「……ブッ、ブラッディハグ!!?」
「そのようだ。」

空いた片手でバールの質量を味わうかの様に弄び、Ζは殺人鬼を見据える。フォーコも慌てて起き上がり、その頼もしい背に隠れながら立ち上がりだしたブラッディハグを見た。

まさに“奇っ怪”……その言葉がピッタリだ。暗闇だが、この距離ならなんとか見える。顔を覆う“血”と書かれた長方形の金属箱も、棘や刃物だらけの腕や身体も、返り血まみれのその身体も。

「ひっ……“人”、なんですか?」
「殺人“鬼”だ。」

ソレは、ゆっくりゆったり腕を広げて小首を傾げてみせた。

“こっちにおいで?”

と、言っているかの様な。

そんな彼の棘には、服の切れ端が刺さっている。オシャレで、可愛らしい……ハイティーンの女の子が好みそうな。ただし血でドス黒かったが。
恐らく、一週間前にこの辺りで行方不明になった高校生らのモノだろう………。

そう思っている間にも、ブラッディハグはゆらゆらした足取りでこっちへ向かってくる。
先程のΖの一撃は……全く効いていないようだ。

「来るぞ」
「ハイッ」

言下、Ζは踏み出してバールを素早く横に振るった!
バコォン!という派手な音が暗闇の廃墟に響きわたる。バールの角がブラッディハグの側頭箱にぶち当たったのだ。
殺人鬼が仰け反る……が、踏みとどまって大きな手を振るう!黒いヒーローは後方への宙返りで斬撃を回避した。そして再び地を蹴って突撃する………

(うわホントすごいなぁ〜……流石ヒーロー)

一方のフォーコは、巻き添えを喰らいたくないのでじりじり後退しながら完全に第三者であった。
彼は強制的にヒーローに“なってしまった”者であり、当然ながら戦闘経験は無い上、元々がインドア派なのである。
Ζや他のヒーローと組み手ぐらいならやったのだが……勿論、ボロッボロ。
だから、今回……初の任務が“殺人鬼退治”と聞かされた時、これは体の良い解雇なんじゃないかと思った程だ。

そんなフォーコを余所に、Ζはドつッ、ボグッ、バッコォーンとブラッディハグを圧倒してゆく。このまま勝っちゃうんじゃないのあの人。てか勝っちゃうなぁ。強〜。

その時、軽い動作で無傷のΖが大きく跳び下がった。ぐっとバールを構え、全身に力を溜める。
そして、一気に解放した!


「パニッシュ・ドライブ!!!」


轟、と駆け抜ける。貫かれる閃光の速度。

超速に乗った重い重い一撃が殺人鬼の胴に直撃、長い廊下を何メートルもぶっ飛ばす!



――――ゴッ シャアーーーン!!



そのまま非常階段のドアをぶっ壊し、老朽化した階段の手摺諸共、ブラッディハグは夜の黒へと落ちていった………。

「スゴい、やっつけましたね!」

愛器で肩をとんとん叩くΖに駆け寄り、フォーコは壊れ開いた非常階段を見遣った。暗闇の廃墟の中に、大きな満月の蒼白い光が夜風と共に射し込んでくる。

「やっつけた?――――いや、違う。」

え?と首を傾げたフォーコを後目に、彼は逆十字の表情を非常階段へと向けた。フー、と息を吐く。

「ブラッディハグ………聞いた通り、恐ろしくタフだな……。」
「えぇっ!?まだなんですか!!?あれだけ攻撃を喰らって……四階から、落ちたのに!?」
「……ん、三階じゃなかったか。」
「いや、四階ですってば!!」
「ふむ。」

いやそうじゃなくて、とフォーコは頭を振る。

「冗談抜きで、奴は……」
「二度も言わせるな。まだ生きている。………だが、先程までの攻撃でそれなりにダメージは蓄積している筈だ。」

言いながら、Ζは歩き出す。コツーン、コツーン…と、足音。フォーコもそのままついて行く。

「今なら」

立ち止まった。非常階段の壊れたドアの前。眼前には、朽ちた踊り場。闇が夜が横たわって大口を開けて居る。

「お前でも倒せる。」
「……え?」
「健闘を祈る。」
「え?」



ヒュッ、


   どぐっ。



「ごフッ!!」

バールの一撃、背中にヒット。

「ちょ」

放り出される、夜の中。

「Ζさっ…」

そして、重力――――

「あああああああぁぁぁぁ………… … …  。」


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