FLAME−HERO
4

「アレが魔女?へー初めて見たですー」
「いるんだな〜、ぼくが言うのもアレだけど」
「……」


等と完全に他人事めいた感想を漏らす殺人鬼達の一方、Ζは一歩出るやバールの切っ先を中の女へ突き付ける。

「リリーシィ。貴様の仕業だったのか」
「あらΖお久し振り。そうだけど、何か問題ある?」
「……問題しかないな」
「そりゃ結構、結構、アハハッ」

何食わぬ物言いで答える魔女にΖはふんと鼻を鳴らした。シルフィアは周囲に風を薄く纏う――その油断なさ、張り詰めた警戒に『リリーシィ』なる魔女が只者では無い事が容易に想像できた。
いや、『魔女』の時点で十分異常か。この世では魔法なんてお伽噺の類なのだから。

「……アレは『悪徳の魔女』リリーシィ。魔法の力を私利私欲に用いる――文字通り、『悪』の魔女」

言葉無くリリーシィに視線を留めていたフォーコに、シルフィアがそれから目を離す事無く説明をする。はい、と答えながらもフォーコは別の事を思っていた。

違う。

あれは、自分に魔法を駆けたあの魔女では、ない。
しかし、同じ魔女ならばあの魔女の事を知っていたりするのだろうか?
『彼女』に会えば魔法を解いて貰えたり……何故自分に魔法をかけたのかを訊いたり出来るのだろうか?

(本当に、何で僕なんかに)

自分より正義感とか熱血漢ならもっと居たろうに、なんて。
そこまで思って、リリーシィに声をかけてみようとして――

「行け」
「へっ?」

Ζの声が鼓膜を打つ。

「俺はコイツを倒す。フォーコ、シルフィア、ブラッディハグ、静ヵ森小学校は『巨人』の撃破を」
「了解しました」
「……フォーコを頼む」
「えぇ――Ζさんも、お気を付けて」

小声の頼みに風のヒーローはしかと頷き、飛び下がりつつフォーコへと呼びかけた。行きましょう、と。

「あ、了解ですっ!……ほら、行くよ二人共!」

マイペースにあっち向いてホイをおっ始めていたブラッディハグと静ヵ森小学校へ呼びかけ、シルフィアが巻き起こした風に乗る。浮かび上がる。巨人へと進撃する。

「うっふふふ、面白そうだから行かせてあげるー」

横目に、魔女の妖艶な眼差し。
ゲームか何かを見る様な。取り敢えず自分が楽しめればそれでいい、そう主張している瞳であった。
人間とは何か、根本的に違う様な。

「気を引き締めて行きましょう」
「はい!」
「すごい風だねー、ぼくスカートはいてなくってよかた」
「……」

銘々に、彼方へと。
それを見送って――

「――って、ちょっと!?」

慌てた様子のパープルホリック。

「ワタシ様はおいてけぼりです〜!?」
「ム。お前は私とリリーシィ撃破だ」
「ええええええ二人だけでです〜!?まさかキサマ様はワタシ様の事が――」
「戦闘力は認めるが厄介者だとしか思っていない。この戦いが終わったらお前の番だ」
「ムキーー!しにやがれです〜!返り討ちにしてやるです〜!!」

熱くなる毒殺殺人鬼に、Ζの露骨な溜息。そんな彼らの視界は暗く、暗く――日が暮れる。太陽が沈む。パープルホリックが手に持っていたハンマーがふるりと震えた。ゴトンと地に落ちた。
斯くして。

「…… いっ」
「あ、」
「っってぇぇェエエエエなオイ!? 落とすなよバカ!!」

そこにいたのは尻餅姿勢の『人間となったハンマー』、殺人鬼のハッピーフラットであった。
彼――正しくは『彼』なのかどうか微妙な所だが――は魔法をかけられたハンマーであり、太陽が沈んでいる間だけ人間の姿になれるという『人間ハンマー』なのだ。

「良く寝たァーーーって思ってたらこのザマだぜ!いってぇ!尻が痛ェ!容赦無ェ!」
「か、勝手に落ちたのはキサマ様です〜!」
「しっかり持っててねっつっただろうがァパープルちゃんよォォい!」
「知るかボケカスです〜!」

勝手にぎゃんぎゃん始めるその様子――に、Ζは興味深げに頷く。

「……ム。ハッピーフラット……?」
「ゲェーッ!?なんっ……な、なんじゃこりゃあ!?街がブッ潰れてやが……ってヒーローいるじゃねぇか!ここで会ったが百目年――」
「Ζ腹パン!」
「ばべフッ」
「あぁっハッピーフラットォーー!!」

Ζの鮮やかな腹パンチにアッサリやられたハッピーフラット、駆け寄るパープルホリック。それらにバールを突き付け、Ζは常の声で言い放つ。

「丁度良い、ハッピーフラット。お前も手伝え」
「ハァ!?」
「魔女狩りだ」
「何でテメーの言う事をだな……」

腹を鈍器の手で器用に摩りつつハッピーフラットが見遣った先、面白そうにくつくつ笑ってこちらを窺う箒の上の魔女の姿。
驚愕に目を見開いた。

「あ、お前はあの時の魔女!!」
「久しぶりね、あの時のトンカチさん。お元気そうで嬉しいわぁ、えぇ。調子はどう?楽しんでる?」
「おうさ、バッチグーさ」
「ふ、ふ、それじゃ、」

魔女は嗤う。黒い手袋に覆われた指先でそのふくよかな唇を撫で、問うた。

「――悪い事、してる?」

返事は即答だった。

「Ja.ったりめぇだらァアア!?好き勝手やらせて貰って、ホンッットお前さんにゃ感謝感謝の雨霰だぜぇヒャッハァア!」

ハンマーを突き付け、せせら笑う。

「あの時――お前さんがこの俺様に魔法をかけてくれた時から。俺ァわくわくドキドキしてたのさァ!気になってたのさァ!お前さんをブッ叩いたらどんな風に潰れんのかってなァァアアアア!!!」

言うや、躍り掛かる。

「結果オーライだな」
「脳筋のテンプレの様なヤツです〜」

兎にも角にも。ここは協力せねばなるまい――Ζに続いてパープルホリックも戦闘態勢に入った。

「「取り敢えずブッ殺す!!」」

振り下ろされるハッピーフラットの大鉄槌、投げ付けられるパープルホリックの注射達。

「全く、これだから面白いのよね貴方達って。ホント」

薄笑みと共に魔女の指が鳴らされれば、地面から唐突に現れた巨大な腕が鉄槌を注射を受け止める。
地面から這い出る様に。一帯だけでは無い。それは、土でできた巨躯の怪物であった。

「何だありゃ!?」
「土の化物です〜!」
「ゴーレム、だな。魔力を込めた土でできた人形だ」

Ζは殴りかかって来たゴーレムの拳を得物で捌き、踏み入り、下方から振り上げたバールの一撃をその頭部に喰らわせる。鈍い音と、割れた土が日の沈んだ街に散った。

「ホラホラ、あたしに触る事が出来るかしら?」

けたけた笑う魔女の指先で魔術式が構築されゆく。向けられた指先と共に魔法陣ができあがり――凄まじい閃光と、爆音と、衝撃。

「ぐっふぉぉ!?これが魔法ってやつかァ」

地面を転がり、寄って来るゴーレムをハンマーで牽制し。ハッピーフラットは舌打ちする。見遣る魔女は多分、本気のホどころか、正に『朝飯前』といった感じの、余裕綽々。腹立だしい。これが『お伽噺』のレベルか。苛立ちの儘に振るった一撃でゴーレムの胴体部分を粉砕した。やはり、叩くなら土くれよりの血の詰まった肉である。
に、しても、わらわら寄って来るゴーレムが鬱陶しい。

「ひにゃ゙ーーーーあっち行けです〜!」

それはパープルホリックにとっても同じ事。接近されたら駄目なのだ。ゴーレムに毒を投げ付け、どんと背中をぶつけるはハッピーフラットの背中。

「あっハッピーフラット丁度良い所にです〜」
「はいはいグーテンモルゲン」
「えいっ」

ぶす。

「え?」

ハッピーフラットの腕にぶっ刺さっているのは、どう見ても、注射器。
中身は――それはそれはエキセントリックなショッキングピンクで。

「おま」
「これでワタシ様の為にアイツらをボッコボコにしてやるです〜!!」
「ええええええええええ」
「つまりキサマ様の為だけに 特 別 にこのワタシ様が数々の特殊で素晴らしいポイズン様を精密なバランスで配合し『命に別状は無い上にスーパーおげんきになれるポイズン様』を作ってやったのです〜。これでハッピーフラットは10万馬力です〜痛みとか恐怖とかその辺もスカイハイにブッ飛んでアゲアゲウルトラアッパーにカミカゼソウルなのです〜おーほほほほほほほほほ!!!」

ビッシ、と魔女を指差して。

「さぁ、ハイパーウルトラハッピーフラット改Ex出撃です〜〜!!名付けて――『ドクドクハッピーウルトラマーチッッ』」
「ウガァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

パープルホリックの毒によって襲い掛かるハッピーフラットは正に怒涛、暴れ狂う濁流の様に片っ端からゴーレムを粉砕していく。壊していく。潰していく。

(トンデモないな……)

流石は常軌を逸した者――殺人鬼がやる行動だ。
何はともあれ、雑魚掃討は終わった。
Ζとリリーシィの視線が合う。

刹那、巨大な魔法陣が浮かび上がった――

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あきゅろす。
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