FLAME−HERO
3
「きゃぁあああああああああああああああ!!?」
飛んでいる――全身に吹き付ける風、耳元でヒュゥと通り過ぎて行く空気、遥か眼下の景色、上からの、空からの景色。
「空を飛ぶのは初めてですか?」
パープルホリックを抱えるシルフィアが問う。風の音に負けぬ様やや大きな声で。
その問いに毒殺殺人鬼と言えば――
「はわわわわわわわァアーーー!」
それどころじゃなかった。
ぐんぐん速度は上がる。
大気を突っ切る。
そして見えてきた――膨大な数の化物。シルフィアがパープルホリックを発見するまで、殺人鬼がひたすら戦っていたモノだ。
「え」
サァッとパープルホリックの顔から血の気が失せる。
え、まさか、え、またアレと戦う――!?
「あのッ」
そう訊ねようとした瞬間。
さぁ往くわよ、と急降下。
言葉にならない悲鳴。
暴風。
「――〜ッ……!」
止んだ衝撃にパープルホリックが恐る恐る目を開けてみれば、暴風に吹っ飛ばされた化物達のど真ん中。360度。その中に――驚いた顔。
毒殺殺人鬼にとっては憎き憎き赤いヒーローと黒いヒーロー!
更にいっつも邪魔をしてくる殺人鬼と良く分からない子供(?)まで?
「「おまッ――」」
フォーコとパープルホリックが互いを指差し合って。
Ζはヤレヤレと息を吐いて。
ブラッディハグはノーリアクションで、静ヵ森小学校はキョトーンと。
「風のヒーローシルフィア、ここに推参」
そんな事など露知らず、シルフィアはマントを靡かせ名乗り上げた。加勢に馳せ参じた、と。
「ム、シルフィアか。久しいな」
「えぇ、Ζさん。――既に知っているかとは思いますが、私以外のヒーローは全滅しました」
「うむ。お前だけでも戦えるようで何よりだ」
「ところでΖさん」
「どうした」
「……何故、貴方々がブラッディハグや静ヵ森小学校といった殺人鬼と共に?」
「同じ質問をしても良いか?何故殺人鬼パープルホリックと共に居る?」
「え?」
「ん?」
シンと止まる会話。
パープルホリックはヤバいバレたと蒼い顔、フォーコはオロオロと先輩ヒーロー達と再び狭まって来た怪物達とを見比べる。
「まぁいいんじゃない?」
口を開いたのはフォーコの肩付近に漂う静ヵ森小学校。「お前が言うなよ」と放ち掛けたフォーコの言葉より先に、
「敵の敵は味方って言うじゃない?取り敢えずさぁ――」
指先を動かし浮遊させたのはマンホール、それで手近な怪物を殴りつけて。
「今はこいつらを何とかしないといけないんじゃない?」
「そっ その通りです〜協力してあげてもいいです〜〜!」
ここぞとばかりに声を上げる毒殺殺人鬼。こうなりゃ自棄だと毒を振り撒き、押し寄せる怪物の波を牽制する。
Ζとシルフィアも鉄と風を振るいつつ思った――確かに殺人鬼達の言う事も頷ける。自分達の今の目的はグダグダとお喋りに来たのでも殺人鬼を取っちめに来たのではない。
あの悍ましい巨人を倒す事なのだから!
(ヤレヤレ……)
フォーコは一つ息を吐く。取り敢えずこの状況で殺人鬼と先輩方がドンパチを始める事だけは避けたかった。
ナイスフォロー、と静ヵ森小学校に言ってみたが、当の本人(霊)はキャハハハハーと楽しそう〜に廃車を荒ぶらせて上機嫌。なによりです。
さて、これだけ勢力が居れば先の様にはいかない。
打ち倒し、切り開き、薙ぎ払ってゆく。
数があるってやっぱり凄い、とフォーコは心の底から思った。同時に「戦隊ヒーローって良いよなぁ」と羨ましい気持ち。だってアイツら、いっつも5人でいるじゃん。
ん?戦隊ヒーロー……?
もし僕が戦隊ヒーローだったら、赤いからリーダー!?
うーん何レンジャーかなぁ。Ζさんは黒かなぁ。パープルホリックがピンクで、シルフィアさんは緑か白だね。考えると楽しくなってきた!
「うん……悪くないかも」
「フ、この状態を『悪くない』と形容するとは、お前も中々に肝が据わって来たようだな。だが、そういう時期が一番危ないのだぞフォーコよ。悪い意味で『良い感じに』慢心と自信がブレンドされている為に注意力が散漫になっている場合が多い。こう云う時にこそ『初心忘るべからず』だ。分かったな?」
「は……はい!」
(流石Ζさん……ってか何でこんな話に?)
聞きながら「やっぱΖさんほんと恰好良いヒーロー」とか思ってしまった自分について何とも言えない気分になる。
取り敢えずそんな思考は一先ず今夜寝ながら考えようと思いながら拳に炎を纏って怪物へ叩き付けた。
確かに、先輩ヒーローの言う通り無駄な考えは隙に繋がる。集中しよう。
夕焼けの日は赤い。
「スラッシュフーガ!」
舞う様にシルフィアがしなやかな腕を振るえば、巻き起こった真空刃が鋭く怪物を切り裂き飛んで行く。通り過ぎた後に吹くは暴風、追撃が如く怯ませる。
が、怪物以外は一切傷付けない。ビルも、看板も、街路樹も。荒々しさと優雅さを併せ持った戦い方。
「クラッシュ・ロア!」
一方のΖは剛でいて柔の業、経験に裏打ちされた巧みな技術と一撃を見極める凄まじい豪打を以て突き進む。またバールが唸ったかと思えば怪物達がバネの様に吹っ飛ばされて行った。
「ふむ」
ヒュ、とΖのバールが一つ振るわれるやそれは彼の肩の上に担がれる。逆十字の顔は周囲を見渡していた――どうやら一帯の怪物達の殲滅は済んだ様だ。
不穏な気配は近くに無い。ならば今の内のあの巨人を討たねば、と誰しもが高層物件を今も破壊している異形へ目を向けた……斯くして、その時。
「おーい、ヤッホー正義の味方さんご機嫌如何ー」
空中、箒に乗った一人の女が一同に手を振っていた。
浅黒い肌に金の髪、呪術的な装束。蠱惑的な雰囲気の女。
あれは。
紛れもなく。
間違い無く。
「――魔女」
Ζの声に宙の魔女はニタリと笑んだ。「ピンポーン」と。
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