FLAME−HERO
2

その怪物の形は様々だったが――何れも歪で、粘土を適当に捏ねて形造った様な印象を受けた。

「フレイム・ブームッ!!」

フォーコが手刀にした腕を薙ぎ払えば火炎を纏う熱風が扇状に広がり怪物達を焼き尽くす。その肩には静ヵ森小学校が、ポルターガイスト能力でその辺にあった看板や車や硝子の破片etcを操り、飛ばし、攻撃を防ぎ、フォーコを支援する。

「おららーー! 七不思議の礎にしてやろうかーーー!」

唸りを上げて飛んで行く幾つもの硝子片。それは鋭くナイフの様に怪物達へ突き刺さり、突き刺さる。硝子の嵐。或いは、スクラップの嵐。雨霰。

「こんだけモノがあったら操り放題だよぉ!アッハー!独壇場独壇場ぉおーーー!!」
(……一応、『正義の味方サイドなんだぞー』って言った方がいいのかな……)

火炎の拳で纏めて殴り飛ばしつつフォーコは思う。折角、折角今、すっごくヒーローっぽい事してんのになぁ……。
チラと視線をやる方向、自分の背後、背中合わせの黒いヒーロー。

(あーー、背中合わせの激戦とかすっごい今、僕、ヒーローっぽい!)
「フォーコ、気を抜くなよ!」
「あ、ハイッ」

Ζのバールが敵を叩き伏せ薙ぎ払う音が聞こえた。凄まじい音。いつもよりド派手なのは敵が多いからか気合いが入っているからか――兎にも角にも気を引き締めて深呼吸を一つ。
フォーコの視線の先にはブラッディハグがその豪力で大型の怪物を真っ二つに引き裂いていた……黒いヘドロの様な怪物の中身がボトボトボトリと地に垂れる。グロイ。なんて思いつつ火を放つ。紅の炎は夕焼けの赤により赤々と、赤々と。

それにしても、

「……キリが無いな」

バールにこびり付いた肉塊をヒュンと払いつつΖが呟く。相変わらず殺人鬼達はヤりたい放題暴れまくり、その猛威は敵対したからこそ分かる。勿論ヒーロー達の働きとてそれに負けてはいなかった。

だが、それでも、

「減りませんね」

肩を弾ませフォーコは答えた。そこで気付く。『キリが無いな』とか言っておきながら息すら上がっていない先輩ヒーローに。やっぱりすげぇや、と再認識。

「へらないなら、片っ端からやっつければいいんじゃないの?」
「……そういう訳にもいかんのだ、静ヵ森小学校」
「えー、何で何で?」
「効率が悪い」
「えー」
「で、どうするんです?」

イマイチ理解できていなさそうな静ヵ森小学校がまた何か言う前にフォーコはΖに問うた。ブラッディハグが切り裂いた怪物の断末魔――それが終わった後、黒いヒーローの逆十字が微かにフォーコを見遣ってから遥か彼方を見澄ました。
フォーコも同じ方向を見てみる。巨大な……巨大な……異形、巨人、改めてその大きさ・物々しさに慄然とした――殺人鬼と相対した時とはまた違う感覚。これは、圧倒的なモノの前に手も足も出ない様な、自分がひどくちっぽけな存在に感じる無力感、どうしようもなさ、恐怖。
それらの気持ちを飲み込む様にもう一度問うた。「で、どうするんです」と。

「親玉を叩く他にあるまい。この怪物は、」

と、襲い掛かって来た怪物をバールの一閃で叩き潰し、

「……あの巨人から生み出されている。延々とな。このままだとジリジリ磨り潰される。理想を言えばコイツらを無視してあの巨人を叩きたいのだが――」
「強行突破、出来ますかねぇ」
「出来る出来ないの問題ではない。『やらねばならない』――結果はそれからだ」
「流石です」

致命的な
方向音痴
持ちとは思えない。このクールさ、格好良さこそがこの人の素晴らしい所だとフォーコは思う。

さて、それはさておき自分達は、『この数えるのも気が遠くなりそうな怪物の群れを強行突破しなくてはならない』。

「強行突破?やるの?デェーーンって?ぼくに任せて!」
「……」

フォーコの顔を覗き込む静ヵ森小学校が、ふと振り返ったブラッディハグが、何の偶然か事前に打ち合わせでもしていたのか全く同時にサムズアップ。
そんな些細な出来事に、内心ちょっとだけ緊張が解れたり。

「そうだね、頑張ろう」
「うん!」
「……」
「行くぞフォーコ、ブラッディハグ、静ヵ森小学校」


そして、眼前に立ちはだかるそれらに猛撃を以て挑まんと――




***




時は少し遡る。



「……――う、」

気が付いた。瓦礫の中だった。

「ッ、……」

全身の痛みに耐えながらようやっと身を起こす。夕風に靡く黄緑の長い髪、風のヒーロー・シルフィアは頭を振って意識をハッキリさせると辺りを見渡した。
巨人と戦闘していた所から大分と吹っ飛ばされてしまったようだ。遥か向こうに科学技術を集めて造ったビルを薙ぎ倒し薙ぎ払い闊歩する巨人の姿が見える。

そして、ヒーローの姿は見えない。

「………」

増援のヒーローもやられてしまったのだろうか。他のヒーローとも連絡が取れない。恐らく、もう、この島に、この世界に、戦えるのは自分だけ、なのだろうか。

(弱気になっちゃ駄目……!)

『もうお終いだ』――そんな気持ちを拳を握り締め追い払う。

まだ結果は出ていないのだ。
まだ自分が居るのだ。

ならば、戦おう。最後の最後まで。
傷は少し休めば大分楽になるだろう。ヒーローは傷の治りが速い。歩き出す。巨人の方向へ。


その時だった。


「あぁ、もぉ……!」

声が、聞こえてきた。

「全く……!『新しいアジトは都会が良い』ってなった矢先にコレです〜!おのれ変な巨人と、あと、あれ、何か良く分かんない変なワラワラとした怪物めです〜!!」

それは物陰に蹲るショッキングピンクの女。半ばベソ声で愚痴を垂らしながら片手に持ったトンカチをぶんぶん振っている。

「早く、早く人型になるですハッピーフラットぉぉ〜!ワタシ様だけじゃ、グスン……」

彼女の周りには毒に溶けた怪物の群れ。
シルフィアはその光景に息を飲み――緩やかに話しかけてみた。

彼女が毒殺殺人鬼・パープルホリックであるとも知らずに。

「あの、」
「は、はひぃっ!!?」(ゲェーッ!ヒーローです〜!!)
「貴方、ひょっとして……」
「え、あ、はわわわわ」(ヤバイ!ヤバイヤバイヤバイです〜〜〜!!)
「ヒーロー?」
「ヒィィイィ…… へっ?」
「え?」
「ハイ?」
「えっ?」
「……」
「……」
「…… ハイ!ワタシ様はヒーローのパープルホリックです〜!」
「パープルホリック?どこかで聞いた覚えが……」
「あっ そのっ ワタシ様はその、僻地の地元ヒーローなのです〜!」
「あ、そうでしたか。失礼しました。私は風のヒーロー・シルフィアです」

こんな大規模な戦い、初めてなのだろう。それで気が動転しているのだ。

シルフィアはこの殺人鬼である地元ヒーローに対しそう解釈した。
なので出来るだけ穏やかに微笑みかけ、緩やかに話しかけ、そっと手を伸ばす。

「大丈夫、私も貴方もヒーロー……味方です。怪我は有りませんか、立てますか?」
「あ、ハイです〜……大丈夫です〜」

パープルホリックはシルフィアの手を取り立ち上がる。上手い事騙せている、ようだ。
しかし心臓がドクドク早鐘なのはまだ収まりそうにない。
正面からの近距離真っ向バトル――それほどパープルホリックが苦手にしているものは無い。
今の状況は、巨人の手に全身をガッチリ握り込まれているようなものだ。いつプチリと潰されるやら。

(あああああああもう!早く人型になれですハッピーフラットぉおー!!)

チラリ目をやるチャチなハンマー。撲殺殺人鬼・ハッピーフラットの『真の姿』。
この魔法を掛けられたハンマーは日が沈んだその時にこそ『殺人鬼』としての姿に――要は人型に変身するのだ。
つまり人間ハンマーなのである。

「もう、あの巨人に立ち向かえるヒーローは私とパープルホリックさんだけみたいですね」
「そ、そうなんですか〜?」
「うん……私のチームは私以外全滅。増援のヒーローも……」

この静けさじゃあ、居ないみたい。

そう言いかけた瞬間だった。

「…… ?」

『この静けさじゃあ』……?いや、違う。

聞こえる。風に乗って、確かに。

 ――居る!

「ど、どうしたです〜シルフィア……さん、」
「聞こえる」
「え?」
「向こうから、……増援のヒーロー!あぁ、良かった!」

シルフィアは心の底から安堵した。ひょっとしたら……いや、きっと、まだ、勝ち目はあるのだ!

「行きましょう、彼等の元へ。……見た所、貴方の実力もかなりのものみたいね。心強いです」
「えっ あっ いや〜、その……」
「私達ならきっと大丈夫。きっと勝てます。勝ってみせます。だって、ヒーローですもの。不可能を可能にするのが私たちなのです」
「です、です〜……」
「さ、行きましょう!明日を護る為に――世界を護る為に!」
「ちょ、」

言うが早いかシルフィアがパープルホリックの手を取った。

そして風を纏い――一気に宙へ飛び上がる!

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あきゅろす。
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