FLAME−HERO
3



――― !!



悲鳴も忘れて、二人の殺人鬼は“それ”から半ば尻餅の形で飛び退いた。

「おッ……お前はッ…!」

ゆら〜り、立ち上がる影。
それは、…殺人鬼ブラッディハグだった。

「ブラッディハグ!?何でココに居るです〜!」
「そーだそーだ!何しに来やがった!」

体勢を立て直し立ち上がった二人の詰問に、新たに現れた彼はグッと親指を立てた。「何でって、何ででもさ。」と言わんばかり。
そして徐に刃物だらけの両手を広げ―――彼らに抱きつかんと。

「おっとォーさせっかァ!!」

それに素早く反応したのはハッピーフラット。片足を踏み込みつつ、片方の鎚腕を斜め下から上へ猛然と振り上げる!
どつっ…と重い衝撃音、ブラッディハグの巨体が跳ね上がってブランコの錆びた支柱にぶち当たって、雑草まみれの地面に俯せで落ちた。彼が当たった所為でブランコが歪んだ。傾いた。

「コイツ〜殺人鬼のクセしてヒーローの肩持ちやがったりワタシ様達に楯突いたり、つくづく腹の立つ野郎です〜!」

大きく後退して距離をとったパープルホリックが薬箱の中身を弄りながら、もそりと立ち上がるブラッディハグを鋭く睨みつけ吐き捨てる。それをキッと指差して、

「ハッピーフラット!殺ッておしまいです〜っ!!」
「ガッテンだーーいッ!!」

強く一歩を踏み出したハッピーフラット!…であったが、その踏み出した足を地に着けたまま後衛の彼女へ顔を振り向かせて、ムキーッと不服感をいっぱい振りまき怒鳴った。

「って、何で親分子分みたいになってンだよ俺ら!!意味わかんねーッ」
「意味わかんねーのクソもないですこのビチグソ!!つべこべ吐かしてる暇があったらとっとと殺るです援護はしてやるです〜!」
「だっ誰がビチグソだコラァア!俺ァハンマーだからうんこ出ないもんね!!」
「どこのアイドルですか腹立だしいです〜っ!」

…なんてぎゃいぎゃいしていたからだろう、ひょいっと地面を蹴って一気に距離を詰めたブラッディハグの刃物だらけパンチがハッピーフラットの横っ面に思い切りぶち当たった。

「ごぅあっ」

今度はハッピーフラットがぶっ飛ぶ番、地面を擦る様に派手に転がって…「うわ危なっです〜」と毒殺殺人鬼に露骨な回避をされて、まだ転がって、それから止まった。
…というのを見もせずに、パープルホリックは目に痛い蛍光グリーンの液体が入った試験管を片手に、ゆっくり歩み寄って来る殺人鬼をじっと見据える。少しずつ後退しているか…ブラッディハグの緩慢な一歩の方が大きい。よって少しずつ距離は縮まってゆく。

「おっとそれ以上近付いたら…このポイズン様でキサマ様をでろっでろのどろっどろにしちゃうです〜。」
「…」
「良いのですか〜痛いですよ〜?」
「…」
「ちょっ、シカト反対断固反対です〜〜!!」

何か喋れリアクションしろ、と試験管を持った手で斬殺殺人鬼を指さすパープルホリック。

と、その時!

「ウッギャーーーッ!!!」

野太い悲鳴が陰鬱な校庭に響き渡る―――すぐ判った、ハッピーフラットだ、何やってんだと怒鳴ってやろうかと振り返り……硬直。

「ギャーー!うぎゃぎゃーー!!ちょっまっななな何じゃこりゃーーーっッ!!?」

倒れたハッピーフラット。
を、掴む……地面から生えた、大量の手、手、手。
腐った手、骨が見える手、骨だけの手。

「えぇぇえぇっ……!?」

愕然。
そんな彼女の周り、ブラッディハグの周り、……否、校庭中から、ボコリボコリとあの手この手が生えてきて。
殺人鬼達が困惑し狼狽している瞬く間に、それらは地面から姿を現した。



腐り落ち朽ち果てた人間である。



「「「………!!」」」

三人共が驚愕。

静ヵ森小学校七不思議の一つ―――


“運動場に七不思議の犠牲者が埋められていて、夜になると出てくる”


というのを、彼らが知る由もなく。
この怪奇現象にたまげて驚いて、…真っ先に動いたのはパープルホリックであった。

「キサマ様達の事は忘れないです〜っ!!」

と。
ゾンビ達が未だ地面から這い上がる最中、身軽に校庭を駆け抜けて躱して。一先ず屋内に逃げ込もうと校舎を目指した。

「あ゙ッ……アイツ逃げやがった!?ちょっ、待て待て待てパープルちゃん助けろって俺マジで食われるーーッ!!」

哀れにも見捨てられ、地面な押さえつけられたまま喚くハッピーフラットの周囲には、腐臭と腐汁を放つゾンビ達がわらわらと。


あぁ、俺もう駄目かも……


目を閉じかける―――刹那。
ゾンビ達の隙間から、こちらをじーっと眺めるだけのブラッディハグが。
食われるのかなぁ…?そんな感じ。我関せず。傍観。

「テメェコラァア見せモンじゃねーぞゴルァアア助けろっちゅーの!!!」

ウン。―――ブラッディハグが頷いた、…ような気がした。
次の瞬間にはゾンビ達がぶっ飛んでいた。ブラッディハグがその凶器である腕で大きく薙払ったのだ、とその次に理解できた。

体が自由になればすぐ起き上がる。その背…何分刃物だらけなので引っ付けたりしないが、丁度背中合わせの様に斬殺殺人鬼とは反対方向に体を向けて。

「……クッソ、パープルちゃんめあとでお仕置きしてやる」
「…」
「ハグちゃん、テメーとのドンパチはその次だッ!!」
「…。」

同時にゾンビ達へと腕を振り上げた。
今は協力しないと、ゾンビの餌になってしまう。




***




―――廊下で目を閉じて“だるまさんが転んだ”って言うと、両手足が無くなるんだって―――



「……え、ホントにやるんですか。」
「当たり前だろう。」
「しかも僕がやるんですか。」
「当たり前だろう。」

廃墟に電気が通っている筈もなく、青白い月明かりに照らされた不気味な廊下。
ヒーロー達は“七不思議”の実験を行おうとしていた。

「ちょっ…、え、マジで無理ですって無理無理!ただでさえもう……ね、なのに目を閉じて……りょっ、両手足ですよΖさん!!」
「いいから。私を信じろ」
「えぇー……。」

抗議してみるも、断固としたΖの態度は変わる気配を見せない。フォーコは溜息と共に項垂れた。やるしかないようだ…。顔を上げる。先輩ヒーローの逆十字を見れば彼に背を向け一歩、二歩。

「………いきます。」
「うむ。」

Ζは窓側の壁に凭れて頷いた。

「……ほ、ホントにいきますからね?」
「うむ。」
(うぅっ……相変わらずの“クール”なリアクション…。)

頑張れよ!お前なら絶対できる!私がついてる、大丈夫だ!
…とか言って欲しかったなぁ、と思ったのと同時に、これはないなΖさん的にとも思った。

さて……、息を吸い込む。目を閉じる。


「“だるまさんが転んだ”っ…!!」




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あきゅろす。
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