FLAME−HERO
2


ギーィコ、ギーィコ。


残っているのが奇跡と賞せそう、そんなボロッボロのブランコに、二人。

殺人鬼が、二人。

「なァあ〜パープルちゃんよォーい」
「何です〜ハンマー太郎」
「ちょ……いい加減その呼び方を止めろっつーの。ったく…。」

ギーィコ、ギーィコ。
のんびりだらだら、汚いブランコ。
ハッピーフラットは気怠げな半目を横で揺られる殺人鬼・パープルホリックに向けた。

「でさァー本題だけど……。“あの赤いヒーローと黒いヒーローをぶっ殺す”ってな訳なんだろォー、俺らがこーやって連んでコソコソしてんのってェー」
「いかにもたこにもです〜」
「……それで?思い付いたのか、作戦とかァ」
「…………。」
「あァ……、十分判った。」

はぁ、とハッピーフラットは溜息を吐いた。

あの赤いヒーローと黒いヒーローをぶっ殺す為……なんて理由で手を組んだ二人の殺人鬼。
パープルホリックとしては真っ向からの格闘戦が苦手なので。ハッピーフラットとしては日中は無防備で行動不可なので。何気に二人お互いの弱点を補い合えているのだ。…だからこそ、この異色チームが出来上がったのだろう。
現在はヒーロー達をギャフンと言わせる為に計画を練ったりなんやかんやと彼方此方をふらふら放浪中である。

…が。

その肝心な“計画”とやらが、未だ白紙の状態なのであった。

「……ま、俺ァ兎にも角にもブッ叩けたらそれでイイんすけどォ〜」
「まぁ、ワタシ様は取り敢えずポイズン様で遊べたらそれでイイのですけど〜」

言葉は同時。それから沈黙も同時。ただオンボロブランコの錆び付いた鎖だけが軋み続けている。

(こんな調子だからいつまで経ってもアレなんじゃね……)
(こんな調子だからいつまで経ってもアレなのです〜……)

はぁ。二つの溜息。
そして、その直後だった。



キーン、コーン、カーン、コーン……



「「…… !」」

ひび割れ、掠れ、錆び付いた不気味な音が一帯に響き渡る。殺人鬼達は不意の大音に弾かれた様に顔を上げ、見遣った―――彼方、聳え立つ仄暗い廃墟を。

「なんッ……あの学校、ぶっ潰れてたんじゃねーのかよ!?」
「まっ、まさか……“呪われた学校”とかそんな感じですか〜!?」

思わず立ち上がって後退る。
二人は廃墟・静ヵ森小学校の校庭、雑草が生い茂る隅のブランコに居たのであった。
夜空の下、朽ち果てた小学校は不気味な事この上ない。

「……誰だったっけぇ〜“ココをしばらくアジトにするです〜!”っつったのァ〜〜。」

じとり。眉根を寄せたハッピーフラットの目線がもう一人の殺人鬼の横っ面にブスブス刺さる。思わず振り向いては両拳を握り締め、すぐさま反論。

「“おー、別にいんでない”って賛成したのはキサマ様です〜!」
「ンだよ俺の所為かよォッ!」
「連帯責任です〜!」
「成程!」

平和に丸く収まった。

となれは気持ちを入れ替えて、「また別のアジト探そうぜ」と撲殺殺人鬼は相方に言おうとして……、ハッとある事に気が付いては急遽別の言葉を鋭く掛けた。
それは、「伏せろ」と。しゃがんで雑草に身を隠しながら。

「…?何でです〜?」

サッパリ判らないながらも、取り敢えず彼に倣ってしゃがみながらパープルホリックは首を傾げる。
ハッピーフラットはそんな彼女に「しぃーっ」と腕ハンマーを口元に(本人的には唇に人差し指を宛行っているつもりなんだろう、多分。)、静かにするよう指示をしながらあっちの方へと目線を遣った。

そこには―――

「 …っ!」

思わず「あーっ!」と言い掛けた口を両手で塞いで、毒殺殺人鬼は目を見張る。


「あ〜怖い……ホントもう冗談抜きで怖い…トイレ行けなくなりそう……いやもう行けない…」
「フム…、“七不思議”に因れば、埋められた犠牲者が出て来る筈なのだが……。」


校庭のど真ん中を行く、赤いヒーローと黒いヒーロー。
にっくきアイツ等じゃあないか!

「…〜〜!」

パープルホリックは素早く相方へ振り返った。まだ彼等はこっちに気が付いていないようだが、どうするのかと。

「…。」

ゆっくり首を振る。様子を見よう、と。パープルホリックが頷く。それから二人はヒーロー達へと視線を。



「聞きました今のチャイム!一体……、誰の仕業なんでしょう?」
「オバケじゃ「ギャーーワーーウギャーー!!止めて下さいサラッと言わないで下さいそれ今日の“言っちゃ駄目単語ランキング”のMVPですからァアアアッ!!!」
「フム……。成程」
「て、て言うか、Ζさんって信じてるんですか?その……“MVP”。」
「………何を言っているんだフォーコ?オバ…“MVP”も宇宙人もツチノコも居るぞ、この世界には。」
「ええぇえ!?ちょっ……嘘!嘘でしょマジですかΖさん!」
「変な奴だな……学校で習っただろう。ほら、気を緩めていないでキビキビ歩け。油断は命取りだぞ、フォーコ。」
「は………、はぁい……。」

Ζさんだけには“変”とか言われたくなかった…。仕方なしに前へと顔を戻す。
あと、ツッコミ所が満載すぎてちょっと自分の力ではどうしようも出来なかった。
……でも、現に“魔法”が存在するんだから、そうゆうのもひょっとしたら…―――いやいや、止めとこう。



「……アイツ等、校舎に入って行きやがったです〜。」
「だな…。こんな所に何しに来やがったンだぁ?」
「さぁ〜…会話も遠かったから良く聞こえなかったです〜。ツチノコがどうとか、何とか……。」

ヒーロー達が不気味な校舎内へと消えた今も、念の為にしゃがんだままのヒソヒソ声。お互いを見遣り、首を傾げる。

「ツチノコぉ!?なんだ、ヒーローってのは未確認生命体の捕獲も仕事なのか?」
「ウーン……、でもツチノコに噛まれたら死ぬらしいですし…、近隣住民を護る為、ツチノコ駆除に来た、とか?」

さっき“廃校のチャイムが鳴る”という怪奇現象に遭遇していながらも――普通に考えれば“廃校の調査に来た”辺りが妥当だと思える筈なのに――殺人鬼達の話題はすっかりツチノコ一色。ツチノコツチノコ。

「成程なぁ、つーかツチノコマジで怖ェエ!!噛まれたら死ぬッ!?怖っ!」
「ワタシ様としたら、ツチノコのポイズン様を入手できたら万々歳です〜。」
「ったくこれだから毒オタクはよ〜」
「てへ〜っ」


アハハハハ。


どっと笑う。
パープルホリックと、ハッピーフラットと、……その背後に誰か、もう一人とが。

「「あはは……はは………。」」

引きつった笑みを凍らせて、殺人鬼達はゆっくり背後を振り返った。

そこには…。


ゆらりと黒い、大きな影が―――……。



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