FLAME−HERO
1
……ねぇ知ってる？
“静ヵ森小学校の七不思議”。
一、真夜中、誰も居ない音楽室からピアノの音が聞こえるんだって。
二、屋上への階段が無限になって、何処にも辿り付けなくなるんだって。
三、廊下で目を閉じて“だるまさんが転んだ”って言うと、両手足が無くなるんだって。
四、図工室の石膏像が血を吸ってくるんだって。
五、誰も居ない教室で“もーいーかい”って訊かれて“もーいーよ”って答えたらオバケに食べられちゃうんだって。
六、運動場に“七不思議”の犠牲者が埋められてて、夜になると出て来るんだって。
七、“七不思議の七つ目”を知ったら死んじゃうんだって。
……友達の友達から聞いた話なんだけど……。
信じる？
信じてくれるの？
本当？本当に？
じゃあコッソリ教えてあげる。
絶対に内緒だよ。
誰にも言っちゃ駄目だよ。
君にだけ教えてあげる。
七不思議の、“七つ目”―――…
……暗い窓に、赤い血飛沫が飛んだ。
キーン、コーン、カーン、コーン……
山奥の廃校…“立ち入り禁止”の錆びた柵で囲まれた廃墟…静ヵ森小学校のノイズ混じりなチャイムが鳴り響く。
まるで咽び泣く様に、笑う様に、愚痴る様に、愚図る様に、悲鳴の様に。
―――キーン、コーン、カーン、コーン………。
＊＊＊
「―――と云うのが今回の任務だ。」
黒衣のヒーロー・Ζは終始冷静沈着な声音で後輩ヒーローにそう告げ終わった。
「ちょ っ………何ですかそれ怖い！！蕁麻疹でそうなほど怖いッッ！！！」
後輩の赤いヒーロー・フォーコは聴かされた内容に頭を抱えて足を止めた―――つまりこれ以上“静ヵ森小学校”へ進む事に拒絶を表したのだった。
静ヵ森小学校―――
もう一昔も二昔も前に廃校となった、山奥に在る小学校である。
昔は近隣の町の子供達が通っていたそうだが……、町が栄えてきたのを期に、新しい小学校が町の中心近くに建てられる事が決まったのを理由として、暗く深い山々に閉ざされてしまった廃墟だ。
そして、その静ヵ森小学校こそが今回の“敵”なのである。
学校が敵……と云うのも可笑しな話だが、それにはちゃんと“ヒーローがやって来るべき”理由がある。
何でも、この学校へ肝試しに行った者が戻って来ないだとか……夜な夜な小学校のある山からチャイムの音が聞こえてくるだとか……学校を取り潰そうとした者達に悉く不幸が訪れたとか……。
更にはまことしやかに“七不思議”なるものまで町中で噂されている始末である。
……町には漠然とした“不安”が蔓延っていた……。
それを取り除くべくもう誰も通らなくなって久しい山道を、暗く深い夜の道を、二人のヒーローは草を掻き分け進んでいたのである。
「うぅ……今までブラッディハグとかパープルホリックとかハッピーフラットとか……、どいつもこいつも超ォおっかなかったけど……、こっ、今回のソレはまた別の趣がアレなソレですよッ！！何なんですか七不思議とか怪談とか都市伝説とかーーッ！！！」
「相手が何だろうと平和を乱す者は赦さん。それが我々ヒーローたる者だ。」
「そッ………う、です、けど、も…、…そうですよね……、僕らが頑張らないと」
やっぱりΖさんはいつもクールで格好いいなぁ。堂々毅然たる態度が頼もしくって、怖い気持ちが少しだけ和らいだ。
「……これで方向音痴じゃなかったらもっと凄いのに……。」
先頭を行くフォーコのポツリ独り言。
「む…、何か言ったか、フォーコ」
「いえ何も」
「そうか。ならばさっさと歩け」
「了解です」
何故フォーコが先頭なのか。
理由は簡単、奇跡の方向音痴能力を持つΖを先頭に道を行かせたら、100000％の確率で迷子になるからである。
こんな山奥で迷ってたまるか…。殺人鬼とか小学校とかの以前に山と云う名の大自然に殺られてまうわい。
と、云う訳でフォーコが自ら“僕が先を行きます！任せて下さいっ”と志願したのだった。因みにΖは“フ…、勇ましいぞフォーコ。段々ヒーローらしくなってきたじゃあないか”と真相も知らずに何処か感慨深そうにしていた。
（うぅ…怖い……凄い怖い……。）
先頭で草を掻き分け進むフォーコの脳内で、さっきΖから聴かされた七不思議がぐるぐるぐるぐる永久リピート。
大体、七不思議だとかそういうのって、一体全体どーやって戦えばいいんだ！？
吐きそうになる溜息を押し込めて、ふと顔を上げれば木々の彼方に開けた場所が見えた。
果たして―――不気味な廃墟は、闇の中で獲物を狙う怪物の如く、そこに蹲って居たのである。
キーン、コーン、カーン、コーン……
チャイムが、ひび割れて掠れて錆び付いた気味の悪い音が、夜の中で嘲笑った………。
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