FLAME−HERO
8
「結局―――…」
黒いヒーローが逆十字の顔を空へと向けた。
暗い。黒い。夜。
「ハッピーフラットも、パープルホリックも……失踪、か。」
あの激闘からは既に数日かが経過していた。
逃げた二人の殺人鬼の行方は未だ判っていない。目撃情報も被害報告も無いあたり、この町に潜んでいるのではなく何処か別の場所に行ったと考えるのが妥当であろう。
―――となれば、もうこの町に用はない。
華やかで、煌びやかで、賑やかで、猥雑でチープでキッチュなこの町。
今、この町は紛れもなく“平和”なのである。
そりゃ、万引きや喧嘩は今も何処かで起こっているだろうが……昨日と同じ、変わらない日々。いつもの様に、昨日も今日も生きる人々。笑って泣いて怒って喧嘩して寝て食べて仕事して恋をしてエトセトラエトセトラ―――
それをどうして“平和じゃない”と言い切れるだろうか?
……平和な所にヒーローが居ても意味はない、次の場所を“平和”にする為に行かねばならない。
「……―――」
ふと立ち止まったΖは半身だけを振り向かせ、ネオン瞬く町の姿を一望した。夜の冷ややかな風が、彼の黒衣を揺らし靡かせる。ついでにその足下近く、丸まった紙屑をカサカサ転がす。
ふ、と息を吐いた。
「……それはさて置き、此処は何処だ?」
ポツリと迷子の呟き一つ。
遙か離れた場所にて、“Ζさんどこですかー”と赤いヒーローが必死に走り回っていたのは―――、町だけが知っている、また別のお話。
【続く】
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