獄焔CHaiN
その後の其五話・十六 side→ウツギ
館の屋根の上で、ウツギは迎えを待っていた。

それにしても暇だった。
なので金属の尻尾で屋根をガリガリ削って落書きしてみたり、鼻歌を歌ってみたり、遠くの西の或る町名物の素晴らしい夜景を眺めたりしてなんとか暇を消化していた。

「アニキおっそいなー」

とか、誰とはなしに呟いてみたり。

そういえば……
こうやって迎えに来てもらうという機会はほとんど無かったなぁ、と思った。
小さい頃の事を、ウツギはあまり覚えていなかった。幼少期のおぞましい出来事による心的ショックが原因なのだが、それをウツギは理解していない。ただ、ぼんやりと曖昧模糊なのであった。
ただ解ることは……この身体の所為で、自分はほぼ外に出なかった事。まともに外に出るようになったのは、兄と二人になってからだった。

兄は常に側に居てくれた。ウツギを一人にすることは決してなかったし、一定の距離が開いたら必ず怒鳴って呼び寄せた。
その時は決まって、歩くのが遅いだの余所見をしながら歩くなだの叱るのだが……ウツギは知っている。その時の彼の目が、心配で仕方ない色を見せているのを。

迎えに来てもらうのは、それはそれでどこか嬉しいものだが……やっぱり、一緒にいるのが一番いい。

「アニキ遅ェなァーー…」
「呼んだか」
「うごーーーッ!!?」

後ろを振り返った。腕組みをしたスオウが立っていた。その側には飛行ロボがある。これに乗ってやって来たのだろう。上を見れば、我らが飛行船が浮かんでいた。

「スオウ兄貴参上ォ〜〜。」

ニッと笑い、ぱぁっと笑った弟の頭をわしゃわしゃ撫でた。

「待たせたな。……つーかまさか気付かんとは。らしくもなく何か考えてたのか?」
「んーー、ウン。」
「何考えてたんだ」
「へへー」
「あー解ったエロい事か」
「なぬぁっちちちげーよ!」
「で、何だ。」
「ぅーーー…………… あれっ……忘れちったァーー」
「…。帰るぞ」

そう言い、スオウは飛行ロボに乗り込もうと踵を返した。背中。筋肉も贅肉もあまり付いていない細めの背中だ。
ウツギは徐に、それに抱きついてみた。温かかった。兄のにおいがした。

「なんだ、そんなに寂しかったのか」
「ウウン、オレよォーアニキのこと大好きだからよォーー」
「ほォ、言ってくれるねェ」

くくっと笑って、スオウは胴に回された腕を優しく撫でた。

「俺もだ。」

生身の方の掌に掌を重ねた。

(俺もだ、って…それってつまり……)「えェーーアニキ、アニキが大好きなのかァーーー!?」
「なんッ…違ェよこのっ大馬鹿野郎が!!!」

二つ以上の意味で顔を赤くしたスオウの拳骨が、ゴツリと落とされ痛かった。

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