獄焔CHaiN

ネオン輝く深夜の町を、真っ黒なリムジンが滑る様に駆ける。

「タチバナ、俺様はな」

自身の膝の上に頭を乗せたシドミが、葉巻を燻らかせながら下っ端に言った。

「ハッタリかと思ったよ、獄焔憤怒明王が実在することも、お前の魂のエネルギーで具現化してることも。……だからアサギ達を向かわせた。お前は任務に失敗したからな。だが…どうやら、ハッタリじゃねーっつー事がもうしっかり解った。もうアサギ達にはお前を掃除せんでいいと連絡を付けてある。悪かったな?寧ろお前は手柄を立てた。」
「え……!」

居辛そうにしていたタチバナはハッと顔を上げた。その横に控えているエンはただじっと辺りに警戒を張り巡らせて居る。

「さっき、俺様は言ったな。今、ウチには戦力が必要だ、と。」
「はい。……どうしてですか?」
「知りたいか?くく、いいさ教えてやろうともさ。」

首無し騎士は凶悪な笑みを浮かべた。


「東の或る村をぶっ潰す。」


「……!」

村を、潰す?
そんなとんでもない事を……こうも簡単に、言ってのけてしまうなんて。
嘘だ、とは思えなかった。この方はそーゆー方だとタチバナは良く知っていたからである。

「神龍の宝玉。アレで俺様は叶えたい願いがあった……だが如何せん手に入らなかった。しかし、だ。まだ望みはあったのさ。―――東の或る村には、“門”があるそーな。神龍の住処への門がな。そこへ行きゃー宝玉が手に入る」
「えっ…そうなんですか!?俺、神龍の住処は西の果てに在るって……」
「ルートや諸説はしこたまあるのさ。だがこの話はマジだぜ、なんてったって……誇り高き芙蓉騎士団、それが遙か昔に門を護るため村を創って、代々護り治めてきたっつーキチンとした話があるからなァ」

で、その門の話だが…とシドミは白煙を吐いた。

「その門っつーのはな、開かせる為には大量の生贄が要るのさ。」
「生贄……ですか。じゃあ、つまり…!」
「そ。東の或る村の奴等を生贄にするってお話さ。だが、言った通りあの村は歴代最強と謳われる凛楽上人率いる芙蓉騎士団が居る。その為だ。その為に戦力が居るのさ。」
「成程…。」
「タチバナ。」
「はい?」
「よくぞ、獄焔憤怒明王を手懐けてくれた!ソイツがいりゃー芙蓉騎士団なんぞ屁でもねー。良かったぜぇ、俺はちぃっとばかしカンが鋭くってな。町を彷徨いてたらお前に逢える様な気がしてた……そしたら案の定、さ。」

生首は得意げに咽を鳴らして笑った。流石は人ならざる者、といったところか。何か人の常識を凌駕する不可思議な力を、彼は有しているらしい。流石お頭ですとタチバナは頷いた。

「そーだタチバナ。今、機嫌も良いことだしお前にコッソリ教えたらぁ。俺様の叶えたい夢だが、」


それはな。


「頭をくっつけたいんだ。首に。」


両手を使いたい、と彼はとても真面目な顔で言った。



@@@



しばらくすると、港に辿り着いた。
そこに停まっていたのは巨大な、豪華客船の様な船。促されるままにタチバナはそれに乗り込んだ。

ツイている。
俺は猛烈にツイている。
神様どうもありがとう。あなたってばとんだツンデレなのですね。なんだかんだで俺の味方でいて下さって、本当に…本当にありがとうございます!!
まさか、組織に戻ることが出来るなんて。
お頭に誉められるなんて。
こりゃー、上手いこといきゃー幹部ぐらいにゃなれんじゃねーか!?ウヒャホーイ!!ラッキィイー!!
しかも!組織にさえ居たらツバキのアホに襲われる心配も無い!ヤッホォオオイ
あーもーツイてるマジでツイてる俺ツイてるゥウウウウウ!!!

タチバナは飛び回ってのたうち回りたい程の喜びに満ちていた。

船はすぐに動き出した。これから東の或る村へ向かい、作戦を執り行うという。成程戦力が要るとあれ程シドミが言っていた通り、船には沢山の組員達や同盟を結んでいる組織の者、傭兵等が彼方此方に居た。
それにしても、この船のスピードは凄まじい。何でも、ボスであるデュラハンの愛馬が変身した姿だからだとか。本当にお頭はすげーやとタチバナは感心した。

そして彼は、到着まで部屋で休んでいると良いとシドミに言われたのに従い、割り当てられた部屋へ向かっていた。
エンはタチバナの様子から彼らが敵ではないらしいと悟ったらしく、大人しく彼の側に居た。時折、Tシャツの袖を摘んだりして戯れてはくるが。

「久々にまともな所で寝るなぁ……。あぁ、ほんっと俺ってばラッキー……!」

自然に表情が緩んでしまう。部屋の前にはすぐ辿り着き、疲れているしさっさと寝ようとドアノブに手をかけた。

「……!」

だがその時、エンがハッと右の方を見たのでタチバナもつられる様に顔を上げた。

「おっ!!やっほおーぅ」

そこに居た、目の合った人物はへらりと笑って手を振った。ひょうきんな仮面で顔の半分を隠した男に、眼鏡のエルフ、ジャージの獅子獣人。
つい先程まで、タチバナを殺さんとしていた掃除係達であった。

「あ、アサギさん…!」
「やほータチバナー。ボクさっきまで君のことぶっ殺そうとか思ってたけどボスがダメーって言ったからナシになったっよーーだから殺さないからねぇタチバナ」
「はい、その話なら先程お頭から聴きました。」
「うーーん、さっきまで殺そーってしてた奴が味方として目の前にいるなんて……不思議な気持ちっス。」
「奇遇ですねツルバミ、僕も丁度そう思っていました。」
「俺もですよ……あはは。まぁ、これからはどうか宜しくお願い致します。」
「うん。ヨロー」
「味方になったからには仲良くするっスよ。よろしくっスー」
「……宜しく。」

三人を代表して、アサギが手を差し出してきた。彼らもあの作戦に参加するのだろう。嗚呼、敵ならばどこまでもおっかないが、味方としてならばこれほど心強い奴らは居ない!そんな事を思いながら、タチバナは差し出された逞しい掌と握手した。アサギはそれからエンとも握手しようと手を伸ばしたが、途端に明王が殺気を放ったので動作を止めた。
だが。

「ヨローーーーッ☆」

ぎゅっ!とアサギは躊躇う事なくエンの胸に飛び込んで其れを抱きしめた。

「   」

ビキィ、と。
明王の顔が、憤怒の相をなした。牙を剥く。

「ゲッ!ちょっおいエン!!」
「あーもーっこのスットコドッコイ!!」

一喝したトクサが、アサギの後ろ襟をひっ掴んだ。刹那に空間転移魔法を発動し、きゅぅんとどこかにワープした。明王は露骨に舌打ちし、タチバナはお前舌打ちするのかと驚き、それから何ともなくてよかったと胸をなで下ろした。

「あああああ!!ちょっとトクサアアアア置いてくなんてヒドイっスよゥウウウウウ!!」

その横を、置いてけぼりにされたツルバミが駆けていった。

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