獄焔CHaiN
十一
ちぅ、と―――白く細い首筋に、口付けられた。

「ッ――――!ちょ、 っと」

肩を押し退けようとする。が、アサギはその手首を掴むとシーツに押さえつけた。歯が首に、緩く食い込んだ所為で微かに呻きが漏れ出でた。シンプルなワンピースがたくしあげられ、雪の様に白い肌の下半身が強制的に露わになってしまった。

「や、ちょっと―――アサギ、さんっ」
「キレイだねえボタンちゃん。キレイでえろいよ君の身体」
「……… ッ」

ツバキは物心つかぬ幼い頃より、血の滲む様な鍛錬を積んできた。その時、師匠から常日頃、言われていた言葉がある。

『何時如何なる状況状態に於いても、決して怒る事勿れ。常にじっと、冷静で在りなさい。』

嗚呼。
申し訳御座いません、師匠。どうかこの愚かなツバキを御許し下さい。
貴方様の言いつけ……


全力を以て破ります。


瞬間、可憐な少女の瞳が……ひねくれた、男の目になった。空いた片手で印を結ぶ。

「―――解。」

どろん。
白煙がツバキを包んだ。

「ぶはっ?な、これ何プレイっ……」
「―――忍者プレイだ。」

煙が晴れた頃、清らかな少女の代わりに横たわって居たのは―――嫌悪を孕んだ冷たい目をした、背の低い癖毛の忍者………男、だった。

「…………へっ?」

思いもしなかった出来事に、目が点になるアサギ。そりゃそうだろう。押し倒した美麗な少女が、いきなり…綺麗なイケメンでも、ショタちっくなかわいこちゃんでもない……陳臭く、無愛想極まりない男になったら。

「………俺の名はツバキ。御覧の通り、正真正銘の男だ。因みに年齢は35。貴様は33だと云っていたから…年上だな、俺が。」
「………」

アサギは愕然とフリーズしている。彼が動かないし、おちょくってやろうと企んだツバキは敢えて押し倒されている姿勢のままで魔王をじぃと見据えて居た。

「悪いな、ちと用事でおなごに化けて居た。ボタンは、俺だ。まあ、許せ?騙されたお前が悪い誠に申し訳無いが残念だったな莫迦野郎めハハハハハハハハ一度死ねば良いと思うぞキャハハハハハハ」

嫌みったらしい笑みに口を顔を歪め、アイロニックにツバキは笑った。仕返し。紛う事なき、仕返しだった。

「……で?君はどうするのかね。このまま年上の陳ねた男を抱くのかね、え?」

からかうように、未だ凍り付いている顔の輪郭をなぞった。くすくすと沸き上がる笑いを噛み殺そうと努めるが、無謀かもしれない。

「うん。」
「そうだろう貴様とてそんな悪趣味を…………   えっ ?」

今度はツバキがフリーズする番であった。

「え いま なんて ?」
「ヤるよアサギさんは。」

ひどく普通な顔をして、アサギはツバキの両肩を掴んだ。逃がすまい、と。

「問題は外見じゃないってさーー、アサギさん思うんだよね!君は君、君だもの君はそう君うっふふふひひひひひひひひひひひひひひ好きだよ」

イカれた笑いをあげる、魔王。恍惚、というか愉悦、いや狂気、いっそ凶気?
兎にも角にも、これだけは解る。

“此奴はヤバい。”

「ちょッ待て待て待て待て待て外見以前の問題だろ俺は男だ退け離れろ顔が近い嫌だキモイ穢らわしいッッ!!」
「だいじょーぶアサギさんどっちも大丈夫な人だから!」
「貴様の性癖の問題でもないし付き合いたくも無いわこの野郎離れろボケ嘘でしょ信じられん何処触ってやがる貴様ぶっ殺すぞ!!」
「太腿触ったんだけど何か?だいじょーぶだよー優しくするお」
「…っのボケ、何しやがるほんと嫌嫌嫌嫌嫌絶対嫌ちょっとやだやだやだやだってば嫌だって嫌だいーやーだー!!」
「アサギさんそーやってイヤイヤするコをぶっ殺す目に遭わせてしまうのが大好きなんだ」
「決めた今決めたもう決めた殺す貴様ぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すあああああああ!!!」

押さえつけられていた手を振り解き、ツバキは怒りのままに印を結んだ。氣を強く練り上げる。

「忍法・金剛波之術!!」

裂帛の気合いと共に、掌をアサギへ向けた。
刹那、金に光る凄まじい衝撃波がアサギを思い切りぶっ飛ばした。

「うぼあーーっ!?」

ぶっ飛び、壁をド派手に二枚ばかしぶち破って、倒れ込む。その隙にツバキはさっと起き上がると、崩れた壁の瓦礫に埋もれたそれ指さすと、思いっ切りの大声でこう怒鳴った。

「…この、ド変態がァアアッッ!!!」
「呼んだ?」
「うごぁーーーーッ!!?」

真後ろ、いきなり声。
やっほーと手をひらひら、金の髪をしたそれは……吸血鬼の。

「つっ、ツツジの旦那…!?」
「やっほぃツバキちゃん。ストーキングしてますた」
「スト……!?な、何で助けてくれなかったのですか!」
「だって……その方がなんか…面白そうだったんだモン…」
「貴様は一度、死ぬべきだ!!」

怒りに任せてツバキは居合い抜刀、吸血鬼の腹がばっさり裂けた。ばぱっ、と真っ赤な赫が散って顔にかかる。

「ごぶっ あぁんもうツバキちゃんのえっち小腸でちゃった」

ぶーっ、と頬を膨らますツツジ。だが、夜の吸血鬼にとってこんなものは掠り傷にも入らない。でもなんか物凄い不愉快なので喧しいと怒鳴り返してやろうと思い……瞬間、ツツジの手を引っ張って自分との立ち位地を素早く入れ替えた。そのまま流れでしゃがみこむ。
ぎゃるるる、どぱぁん、と騒音がしたのは直後の事で。飛んできた有刺鉄線と五寸釘のバットに上半身と下半身が離婚した吸血鬼がぼさぼさりと落っこちて、バットが向こうの壁にめり込んだのはその後の事だった。

「きゅう けつ き」

ゆらぁり、彼方から起き上がる、影が一つ。

「吸血鬼 吸血鬼お前あの吸血鬼だなぎひひひひひひひ殺す殺す殺すぞ殺すぞ殺してしまうぞ殺してやるぞひひゃははははははははははははははははは!!!」

頭から沢山の血を流した真っ赤なアサギが地を踏みしめ、叫ぶ様に笑った。それと、とツバキを指さす。

「ごめんねぇーーーーーーー君、吸血鬼の仲間、かなっかなーだよねーだからねーーKILLすることに!した!からっ!!あーあーあーあはっはははははははっははっははははは!!!」

ツバキは眉間に皺を寄せた。莫迦め。貴様なんぞと誰が戦うか。ツツジの旦那が動けない隙に、旦那を餌にして逃げてやろう。

「わー怖ぁっ!おっそろしーハアハア」

…とか思ってたら旦那が復活してました!ちっくしょう!!

「ちょ、無理無理無理あんなの私には荷が重いからグッド☆バーイ良い夢を」

しかも蝙蝠化して逃げやがりました!どちくっしょう!!しね!

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あきゅろす。
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