獄焔CHaiN

「っッ!!?」

それに気付いたツルバミは、咄嗟にそれを躱した。見やる。其処に居たのは、いつぞやの盗賊共。

「お前ら―――…!」

トクサを下ろし、睨みつけた。威風堂々とした鬣がざわりと逆立ち、猛獣そのものの牙を剥く。

(……うぉっ、ラッキー!)

体力の限界であったタチバナは、立ち止まって膝に手を突いた。ぜーッ、はーッと荒く息を吐きながら、にやりと笑う。あいつは確か……。いいぞ、ツイてる。このまま奴等が戦ってる間に、体力回復してトンズラじゃーい!
…と、思っていたが。

「タチバナァ!!!」

丁度、タチバナに背を向けて掃除係とガンを飛ばし合っていたウツギが叫ぶ。

「協力してくれ」

………だ、そうだ。
嗚呼…よく見ればそこらへんに……いつぞやの盗賊さん達が…。

逃げる事は、不可能。

つまり……戦うしか、ないってか。

あぁ、と息を吐いてタチバナは背を伸ばした。

「……ネコ野郎ォーーー…テメーはオレが ぶっ 殺 す 」
「ハン!殺れるモンなら…殺ってみろっス!!」

ダンッ、と地を蹴る音が重なった。
打ち出された獅子の重い拳を、機械の腕が裏の拳で軌道を逸らす。同時、喉頸を目掛け矢尻の様な金属尾を飛ばすが、ツルバミはそれを跳んで躱し、そのまま両の足で顔面を蹴り飛ばした。面白いぐらいにウツギの体がぶっ飛ぶ。公共ベンチに激突、もんどり打って倒れた。

「打てェーッ!」

刹那、スオウの号令。盗賊共が構えた実に様々な銃――どれもスオウの手製だ――が、一斉に火を噴いた。だがそれはトクサの防壁魔法で全て阻まれる。舌打ち、悪態。盗賊の頭は、崩れたベンチから血混じりの唾を吐き捨てながら立ち上がった弟をさっと見た。鼻血が酷い。ああ、鼻の骨折れてやがるな、あれは。

「ウツギィ!!魔法使いだ、アイツを殺れッ」
「おうよォ!」

拳で口元を拭い、ウツギは跳躍した。トクサは彼に目もくれず、再び襲いかかってきた銃弾を全て無に帰す。

「さッ せるかぁあ!!」

直後にさっと間に入ったツルバミが、爪を轟と振るった。飛び退いて躱し、舌打ち。

「オオォオオオオオオオオオオオ!!」

その瞬間、現れた明王の焔の剣が疾風の如く振るわれた。ぱっ、と赤がツルバミの肩口から迸った。

「ウツギー!このライオンはエンに任せとけっ!」

お前はあのエルフ野郎を、とタチバナは叫んだ。悪ィな、とウツギは口角の片方を吊り上げた。

「チッ……この下っ端がァ!!」

とっさにトクサは指先から雷弾を迸らせた。だが、彼の標的の前へぴょいと跳んだウツギに内蔵されている魔導遮断バリアの前に、それは儚く掻き消える。

「ホントはあのネコをぶっ殺してェーーがよォーーー……しゃーねェ、死ねェエ!!!」

鈍色の爪をぎらめかせ、ウツギは跳んだ。だが刹那、ひゅぉん、とトクサの姿は掻き消えて。荒ぶる凶器だけが、地面を大きく抉った。

「あ、あれェーー!?」

辺りを見渡す。ツルバミと猛攻防を繰り広げるエン、頑張れ頑張れと其れを応援するタチバナ、仲間達………

「ウツギさんっ!上ーー!!」

仲間達が、空を指してそう叫んだ。彼が見上げたその先、浮遊魔法で空に浮かんだトクサが静かに黒縁眼鏡を押し上げた。

「全く、僕の標的はタチバナ唯一人なんですけど?…邪魔なんで“掃除”させて頂きますね、悪しからず」

すっとトクサが手を胸の高さにまで上げた。すると、それに連動して―――車、看板、ベンチ、自転車、鉄パイプやブロック等といった物が彼の高さにまで浮き上がる。

「魔法は無効らしいですが……これは如何なんでしょうね?」

に、と氷の様な微笑。対照、ウツギは歯を剥き出した。
ふっ、と―――浮き上がっていたそれらに加わっていた魔法の力が、途切れ。
瞬間、物体は凶器となって降り注いだ。

「チクショー」
「どわぁあああああ!!」

ウツギは急いで近くの建物…若者向けの服屋のショウウィンドウに飛び込んだ。タチバナは、ツルバミから間合いを取ったエンが獄炎の結界で護る。ツルバミにはトクサが防壁魔法を施していた。

「……………。」

すぐさま退避した盗賊達の、リーダーは目を細めて戦況を眺めた。それから、先程機械の材料を買った店へ目をやる。何事だと店主が飛び出てきて、瞬間に状況を理解した彼は巻き込まれるのはごめんだと逃げていった。
くっく、スオウは咽の奥で笑った。仲間達が訝しむ様な目を向けてくる。

「お前等、適当にウツギを援護しとけ。ちょっくら行ってくる」

愉快そうな視線で仲間を、敵を一瞥したスオウはその店へと駆け込んで行った。

「テメェーーーずるっちィぞォーおりてこい!!」
「御断りします」

やはりウツギに目をやりもせず、タチバナへと火球魔法を飛ばした。飛び出したエンが七支刀の一振りでそれを消す。

「グルォオオオォン!!」

その隙、ツルバミがタチバナへと躍り掛かった。その牙で、頭を喰い潰そうとする。

「ひぃ!」
「!」

すぐさま明王が獅子へと手を伸ばす。刹那、ツルバミは急ターンしてエンへと向いた。

「もらったァアア!!」
「させるかァーー!!」

隙のできた明王に爪の一撃を見舞おうとしたツルバミは、ウツギのドロップキックで大きく横に吹っ飛んだ。

「このっ……クソ人間っ!邪魔するなっス!」

エンの剣を躱し、間合いを取って睨み付ける。

「っせェーークソネコ!ナメんじゃねェー!」

火花を散らす。刹那、トクサが再び周りの物体を落としてきたので急いで逃げた。

「チクショーーーあのエルフ野郎ォー」
「魔法っていいよなー便利そう」
「……、」
「魔法より機械の方がカッコイイぜェー」

物陰に潜んで、凶器の霰をやりすごす。
ややあって、霰は止んだ。
…その時。

「ふはははははははははははー!!!」

ばぁんっ!
と、或る店の扉が開く。現れたのは、スオウ。手に何か―――野球ボールぐらいの、機械の球を持っている。

「“テクノロジー”を……見せてやるよ、野郎共ォ!!」

ニタァ、と笑み。
大きく振りかぶって…
投げた。
ぎゅぉんと飛んで、……ピタリ、と中空に、留まった。

「……?」

一同の視線が、其れに集まる。
刹那。

キィン!

其れが、何か、……電波の様なモノを、発した。
すると。

「ぇ………うわ、わわわわわわわわわわわわわ!!?」

ぐらり、と浮遊していたトクサがバランスを崩し……落ちた。

「え、あれっ、え!?な、ななななな何でぇえっ!!?」

狼狽する、その手が携えている魔導書も……よく見れば、先程まで発していた淡い光が消えている。彼は腕組みをして煙草の白い煙を吐き出した盗賊を睨んだ。

「ハッ、んな怖ぇ顔すんじゃねぇよ。俺はただ、“一切の魔力を無効化する領域”を創り出しただけだぞ?」
「なんッ………!?」
「俺に不可能はねぇのさ。」

ニィ、笑った。

「アニキィーーーー流石だぜェー!!」
「朝飯前だ、こんなもん」

…さて。
スオウは、片手をすいと上げた。
げ、と掃除係らの顔から血の気が引く。

「…打てェ!!!」

手を振り下ろす。
幾つもの銃口が、火を吐いた。

「――――〜〜〜〜ッッ!!!」

刹那、ツルバミが跳躍した。トクサを護る様に抱え、地に伏せる。

「ッ!!」

銃音が止む。
トクサの魔導書に、再び光が灯った。
ぐったりと力無いツルバミの肩越しに見えたのは、鉄パイプの刺さったあの機械。彼が、あれを破壊したに違いない。

「……くそぉっ!」

トクサは一同を睨みつけると―――空間転移魔法で、その場から消え去った。


残った者達は、一斉に勝鬨を上げた。

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あきゅろす。
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