獄焔CHaiN
一話の前のお話
俺はタチバナ。
或る組織で、ごく一般的な下っ端をしている平凡な21の男だ。
俺は下っ端だから、いつもは雑用とかばっかなんだが……今日、生まれて初めて“任務”というものを命ぜられた。
生まれて初めての。
これ、ひょっとして昇進のチャンス?
喜びと期待に、俺の胸は膨らんだ。

で、今は電車に乗っている。
電車は東の或る村へ、がたんごとん、がたんごとんと揺れながら長閑に線路を滑っていた。
何分、田舎だから乗っている者は俺以外に見受けられない。俺は第一車両の真ん中辺りにちょこんと座っていた。
がたんごとん、がたんごとん。
それ以外は、音の一つもない。夕方の紅を帯びてきた柔らかい陽光が、俺の形をした影を作っていた。

俺の任務は、その東の村にあるという神龍の宝玉なるものを盗ってこい、というものだった。
詳しくは知らされていないが……なんでも、その宝玉にはすごい力があるとかなんとか。

嗚呼、それにしても長閑だ。眠たくなる………
…が、まもなく目的地に着くことを告げるアナウンスで、俺は目を覚ました。



@@@



「…ここが東の村かぁ」

…に、しても長閑だな。正に、田舎だった。
さて……任務をさっさとこなそう。…だが、こんなド田舎に……ほんとにあんのか?その宝玉とやらは。つか、どこにあんだ。

駅の前で立ち尽くしていると、わぁー、とはしゃぎながら、丁度子供達が通りかかった。追いかけっこをしているらしい。年上なのだろう、彼らより身体の大きい少年が、わーとっ捕まえるぞぅーと子供達と遊んでやっている。
ふと、子供達と目があった。弾けるような笑顔で、彼らは口々に俺に言ってきた。

「知らないひとだー」
「にーちゃんどっからきたー?」
「うきゃーー」
「どこの人どこの人ー」

あぁ、いや、と何と答えようか迷っていると、鬼役の少年がすいませんと駆け寄ってきた。へぇ、声変わりはしてんだな。お気になさらずと会釈する。

「いやぁ、我々の村は何分田舎でして。来訪者などとんと来ぬもんですから。」

と、丸い目に癖毛をした少年は苦笑する。そんな彼に、ツバキのおっちゃんだっこーおっちゃーんねーおっちゃんってばーと子供達が群がった。少年の苦笑が大きくなる。あらまーこの子はおっちゃん呼ばわりされてるのか。かわいそーにと思いながら、俺は彼に質問をした。

「俺、南の或る町から来たんですけど………神龍の宝玉、って何処にありますかね?」

すると、実に四人もの子供らを身体からぶらさげながらも彼は丸い目を更に丸くした。

「ほお、宝玉の事を御存知なのですか。其れでしたら、彼処……あの丘の祠にございます。」

と、彼はすっと小高い丘を指さした。おぉ、こんなにも早く情報を得られるとは。ありがとうございますと礼を述べた。どう致しましてと彼は笑った。

「ねーツバキのおっちゃんにんぽーやってやってー!」
「にんぽーよりしゅりけん見たい〜」
「おんぶー!」
「あそぼーー」

子供らに手やら服やらを引っ張られ始めたので、少年はでは失礼致しますると会釈してきた。会釈を返し、丘へ足を向ける。
ややあって、遠く後ろから彼らの声が聞こえてきた。

「ツバキ!」
「あ、上人様!」
「そろそろ戻って来い。夕飯の準備をするから」
「承知致しました、直ぐ向かいます!」
「えーおっちゃん行っちゃうのー」
「もっとあそびたいー」
「ごめんな、また明日遊んでやるから。さ、皆も家に帰り給え。直に日も暮れる」
「はーい!」
「また明日ねー!」
「やくそくなー!」
「ばいばーいっ!」
「うむ、また明日!」


「……ふふ、微笑ましいな」
「子供は良いです。無垢で素直で。」
「お前があれぐらいの時、儂もそう思ったものじゃよ。子供は良い」
「あー……あはは、あの時は苦労ばかりかけて申し訳御座いませぬ、上人様」
「ふふっ、構わぬ」
「して、本日の夕食は如何なさいますので?」
「うむ、ヨシダさん宅から野菜をお裾分けして頂いたのでな、それを使って……………」


とか。
嗚呼、この村は平和だな。とんでもなく平和だな。
どこか心の奥辺りがじんわりと温かくなった。俺は空を見上げた。西は、橙と赤と。東は、青と紺と。綺麗な夕焼けだ。きっと、明日も晴れだろう。

さて、下見をしたら今夜――――“任務”を遂行するとしますか!

よーし、頑張るぜ〜!!



俺はヘルメットをぐっと深く被った。

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あきゅろす。
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