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莉央の過去
・・・ 学校ではいつもの様に、僕は皆から特別扱いをされ、普段通りの時間を過ごした。
ただ一人、近藤だけは例外だが...。
近藤に本当の僕を見せてしまった…その事が一日中僕の頭を支配していた。
勢いあまって僕の本音と態度を出してしまったが、時間がたち冷静になると、だんだんと不安になってくる。
授業などもちろん頭に入らず気づいたら下校の時間だった。
ぼんやりとした思考で帰路に就く。
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自宅へ帰って、庭にある池の鯉たちにエサをやる。
貪欲に口をあけて必死に食べる姿を僕は頬杖をしながら見下す。
「必死に生きようとしているのか?」
餌に群がる鯉に向って小さくぼやいた。
僕だって、これでも必死に生きてるつもりだ。
無様に餌を頬張る魚と何ら変わらない。
僕だって本当はとても無様で小さな存在なんだ。
挙句の果てに臆病だ。
人の顔色を伺って、自分を押し殺している。
本当なら他人の視線を気にせずに、ありのままの僕でいたい。
でも、もう昔の自分には戻れない。
…僕の猫被りは幼い子供の時、祖母と母が話をしているのを偶然、襖越しで聞いてしまった事から始まる。
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もともと僕は、ヤンチャで活発な子供だった。
よく庭へ出ては木に登り、広い家の敷地内や天宮家が所有する裏山に出ては駆け回り、泥だらけになって帰宅する。
今とは想像が出来ないくらい男の子の遊びをしていた。
だが、無知な子供の僕でも母と祖母の態度が兄と僕では違う事に気づいていた。
子供のころから優秀で気品のある兄と、遊んでばかりの僕。
見た目は今と等しく愛らしかった僕だが、精神面や性格、勉学など、容姿以外においては誰が見ても劣っている僕よりも兄を可愛がるのは明白だ。
親戚や、あかの他人や大人達の場合は、やはり愛らしい僕を可愛がるのだが、家族の場合は違ったのだ。
母と祖母は兄に対してだけ優しく接し、兄の言う事を優先して、母の目はつねに兄に向いており僕に対しては冷血にも思えた。
父は子育てを全て母に任せている様で僕たちの事には無関心の様にも感じた。
今思えば、父は僕に興味が無いふりをしていたのかもしれない。
母に怒られている僕を見ても、何も言わずに立ち去ったのだ。
表向きはそうしなくてはならない父の心情も後になって知る。
それに僕はお父様に愛されていることも感じていた。
父は僕と二人きりの時だけは、優しく声をかけて抱きしめてくれた。
母には内緒で甘い物を買ってくれたりもして、二人だけの秘密事が何だか嬉しかったのを覚えている。
「かわいい莉央。お父さんは莉央が大好きだよ。お父さんは莉央の事がママよりも好きなんだ…世界で一番愛している。今度も莉央の好きな物を買ってあげよう……ママには秘密だよ?」
と、強く抱きしめて頬にキスをしてくれた。
表では無関心の様に見せかけているけど父も僕の事を深く愛している事を感じていた。
それに僕は…母も兄も嫌いになんてなれなかった。
寂しさや贔屓を感じつつも、やっぱり家族だから…祖父母を含め皆好きなんだ。
それに兄も、母の態度が僕と兄に対して違う事に気づいていたので気を使ってくれたのか母が僕に優しくしてくれない分、兄が母以上に僕を可愛がってくれた。
泥だらけになって帰ってきて母に怒られても、兄は優しく笑って僕の体を拭いてくれた。
だから僕は辛くなんてなかった。
厳しい母の態度も躾だと思っていたし、僕には優しくて頭も、運動神経も良い完璧でカッコいい兄がいる。
それに僕が大人しく綺麗な格好をして、上品に振る舞うと母は僕を激しく可愛がった。
「莉央は可愛いね。おしとやかに笑えば天使のようだわ…、莉央ほど美しい子は他に居ないわ、貴方は私の宝物よ」
・・・と、僕の顔を見て、頭を撫でてくれる時もある。
普段厳しい母が時折見せてくれる優しさが何よりも嬉しくて、やっぱり僕は母が大好きで、母も僕が好きなんだと実感する。
僕に対しては何故かとても厳しいけど、母も僕と二人きりの時は優しいのだ。
外に出れば万人の人間が僕を美しい、可愛いと称賛しては崇めるように僕を見た。
僕は美しい…、他人とは違う。
特別に綺麗な存在なんだと実感し始めた時期でもある。
だが、他人の意見なんてどうでもよくて家族からかけられる愛情の言葉が何よりも嬉しかったんだ。
万人からも、家族からも愛されていた僕はそれなりに幸せだった…幸せだと思っていた。
沢山の愛情が僕に向けられていた、それに気づいていた。
だけど今度は一度手に入れた称賛や愛情を手放すのが怖くなった。
とくに家族に対して…。
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