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捧げもの

 年頃になると恋ネタが女性の間で飛び交う。

「ねぇ、あの人いいんじゃない?」
「あんたねぇ、あいつはどうしたのよ。」
「三日前に別れたわよ。」
「うわ、早っ!」
「何日持ったのよ、今回は?」
「一週間だったかな?」
「……うげ〜。」
「信じられないっ!」
「ねえ、あんたも、そう思うよね?」
「えっ?ああ、そうね。」

 丁度別の事を考えていた私は慌ててそう答えると、聞いていなかったのが分かったのか数人ジトリと私を睨んでいた。

「まあ、仕方ないわよね。」
「そうそう、今繁盛してんでしょ?」

 彼女たちが言うように確かに今店は常にないほど繁盛しているのだが、残念ながら私がぼんやりしていたのは別の事だった。

「うん、いつもよりも注文が多いかな。」
「それじゃ、疲れていてもしょうがないでしょ。」
「……。」

 私を睨んでいた数人はすまなそうな顔をしたので、私は慌てて首を横に振った。

「私が聞いていなかったのが悪いんだから、ごめんね。」
「ううん、仕方ないわよね。」
「そうそう、従業員はいないもんね。」
「というか、雇ってもすぐに辞められるのよね。」

 私は思わず遠い目をした。
 何せ、私の父は顔だけ見れば強面だし、それに、穏やかに見えてその実ちっとも妥協しない母は普通の従業員だと辞めてしまうほどだった。
 何年か前、三人くらいはいたのだが、家の都合や金銭面で辞めていかれたのだった。
 お蔭様で家族三人四脚状態だった。
 常のような状況ならばそれなりに稼げ、まあ、問題はなかったのだが、何が切っ掛けだったのか忘れたけど、遠くの商人が私の家の商品を気に入り買い込んだとたん、それは売れに売れて今ではかなりの数を作っているのだ。
 オーダーメードの為個数などは決まってしまうし、同じように見えるが全く同じものはないのだが、それが気に入られたのか、全く衰えを見せない。

「あっ、そろそろ休憩が終わる…。」
「えっ、十分くらいしかいないじゃない。」
「後、数十個作らないといけないし、それに貝も拾いにいかないとね。」
「……。」

 気の毒そうに私を見る友人たちに私は苦笑を零す。

「それじゃ、皆またね。」
「ああ、またね。」
「忙しかったら無理しないでね。」
「大丈夫、皆で話をしたら疲れなんて吹っ飛ぶよ。」

 私は手を振って帰路についた。

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