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捧げもの

 自分の話をするのはなれなかったが、それでも、一つ、一つ反応を示す彼女が愛おしかった。

「そうなんだ。」
「ああ、あの時は死ぬかと思ったな。」
「そんな怪しげなキノコを食べる貴方が可笑しいのよ。」
「仕方ないだろう、あの森で食べられそうなものはあれしかなかったんだからな。」
「あの森って言われても私は実際に見たことがないから分からないわよ。」

 彼女は呆れたような顔をし、お茶を飲もうとするが、そのカップはすでに空になっていた。

「……お茶追加しに行くけど、貴方は?」
「もらってもいいか?」
「了解。」

 彼女はポットを台所に持って行く。

「………そう言えば、あいつ、寝る気はあるのか?」

 外を見れば大分と夜が更けており、普通ならば寝ても可笑しくはない時間だった。

「お待たせ。」
「いや、それほど待ってねぇよ。」

 彼女はポットから俺のカップにお茶を淹れる。

「なぁ。」
「ん〜?」
「お前寝る気はないのか?」
「え〜、気の所為じゃない?」

 微妙に視線を泳がせ、しかも、微妙にいつもの口調を変えている彼女が誤魔化しているのだとすぐに分かった。

「お前な。」
「……。」

 誤魔化しが通じないと分かったのか、彼女は肩をすくませた。

「仕方ないでしょ、私一人寝るのなんて嫌だし、それに一日くらい徹夜しても何の支障はないでしょ。」

 俺は溜息を零す。

「眠くなれば寝ろよ。」
「子供扱いしないで。」

 ムッとなる彼女があまりにも子供っぽくて俺は思わず笑いそうになる。

「何よっ!」

 ほんの少し肩が揺れたくらいなのに、彼女は目ざとく気づき睨みつけてきた。

「悪かった。」
「本当にそう思っているの?」
「ああ。」
「……。」

 彼女は俺を睨んだままお茶を啜る。
 それから俺たちはまた話を始め、夜が明けようとする頃になると彼女は舟をこぎ始める。
 俺は周りを見渡したが、ちょうどいい布はなく仕方なく自分の着ていた上着を彼女に掛けるが、もう夢に旅立とうとする彼女はそれにも気づいていない。
 そして、数分もたたないうちに彼女から寝息が聞こえ始めた。
 眠っていたら可愛いのにと俺は思わず思う。

「もう少しだけ、もう少しだけ、こいつの傍に居させてくれ。」

 祈るように俺はそんな言葉を口にした。
 俺は根なし草なのだからいつかこの場所から旅立たなければならない、しかし、もう少しだけ彼女の傍に居たかった。
 だけど、俺に残された時は刻々と迫っていた……。

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