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捧げもの

 お祭りの前日私は売り子として、バタバタしていた。

「いらっしゃいませ。」

 扉の開く音に合わせて営業用の笑みを浮かべたが、すぐにその笑みは引いた。

「よっ!」
「……。」

 町長のドラ息子がそのお仲間を率いて私の両親の店を冷やかしに来た。

「………。」
「無視するなよな。」
「あら、ドラ息子様と愉快なお仲間様が来ているなど全く気付きませんでしたわ〜。」
「――っ」

 私の言葉で顔を真っ赤にして怒る連中に私は冷笑を浮かべる。

「今は一番の書き入れ時なので、冷やかしならばさっさと帰ってくださいな。」
「てめぇ、客に対して…。」
「何も買わない人間は客じゃありません。」
「……。」
「ただの冷やかしだと分かっていてにこやかに接客する時期はとうに過ぎたんだから、ほら、さっさと帰りなさいよ。」

 半ば切れかかっている私に対し、ドラ息子は何を思ったのか私に近寄って来た。

「何よ。」

 私が睨みつけるとドラ息子はニンマリと笑みを浮かべる。

「へえ、オレ様にそんな口をきいていいのかよ。」
「……ええ、いいに決まっているじゃない。」
「オレ様のおやじにーー。」
「言っても無駄だと思うけど?」

 ドラ息子の言葉に私はこいつを睨みつける。

「だって、貴方のお父様はもうすでに貴方を見離しているのだから、貴方に何の権力も当てもないのに怯えるわけないでしょ?」
「なっ!」

 絶句するドラ息子に私は勝ち誇ったように笑う。

「あら、実の息子なのに知らなかったの?」
「嘘だ。」
「本当よ、なんら、証拠見る?」

 私はポケットからある紙を取り出しドラ息子に見せる。

「何だよ、これ……は…っ!」

 私の持つ紙、正しくは手紙を読んでドラ息子は目を大きく見開いた。

「貴方のお父様の手紙よ。」
「くそっ!」

 手紙に飛びかかろうとするドラ息子に私は素早くそれを隠す。

「言っておくけど、これを破っても、私の父さんも母さんも持っているわよ。」
「くそっ!」

 毒づくドラ息子に私はただただ呆れるだけだった。

「貴方が遊びほうけるのが悪いのでしょう、だから、貴方のお父様は貴方を見離したの、いい加減に遊ぶのは止めなさいよね。」
「このアマ…。」

 怒りの矛先を何故か私の方に向けるので、私は呆れて肩を竦めた。

「何よ、貴方がちゃんとやっていないから、そんな事になったのよ、八つ当たりはみっともないから止めなさいよね。」

 ぶるぶると震える拳を見て私は自分が言い過ぎた事にようやく気付く。

「このアマがっ!」

 襲ってくる拳に私は思わず目を瞑った。
 しかし、いつまで経っても想定していた痛みが来なかった。
 不思議に思って瞼を上げるとそこにはあいつがいた。

「何で……。」
「ちょっとお前の親父さんに用があってな。」

 こいつはドラ息子の拳をやすやすと受け止めた様子で、私はただ運がよかったのだと思った。

「よかったな俺がいて。」
「……。」

 こいつの言葉に素直になれない自分はそっぽを向く。

「貴方が来なくたって私はうまく対処していたわよ。」
「……。」

 可愛げのない言葉に自己嫌悪していると、何故かこいつは肩を震わせ笑っていた。

「何よっ!」
「いや、目を固く瞑っていかにも殴られます、っていう格好をしているのに、どうやって対処するのかと考えたらな…くくく。」

 私は自分の顔に熱が籠るのがよく分かり、悔しげな顔をする。

「何よっ!」
「はいはい、強気なお前はいい事だが、それでも、時と場所を選べよな。」
「……。」

 耳の痛い言葉に私は俯く。

「まあ、お前はよくやっているよ。」

 ポンポンと子供をあやすように頭を叩かれ、私はこいつにとっては聞き分けの悪い子供と一緒なのだと感じた。

「親父さん呼んできてくれるか?」
「分かったわよ。」

 目元が潤みはじめ、私は逃げるようにその場からいなくなる。

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