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捧げもの
『二人の物語』 1
 さざ波の音を聞きながら私は砂に埋まる貝を拾う。
 一つ、一つ、私は拾っていき、それを腰に下げた袋に入れていく。
 幼いころからやっている仕事に私は黙々とこなしているといつの間にか手元が陰っていた。
 不思議に思い顔を上げると、そこにはあいつがいた。

「何の用よ。」

 少々刺々しい私の口調にあいつはニヤリと笑った。

「いつもいつも、よくやるよな。」
「……。」

 彼の言葉に私はムッとなる。

「邪魔をしに来たんなら帰ったらどう?」
「ひでーな。」
「……。」

 私はあいつを無視して作業を再開すると、あいつは何故か私と同じように砂の上にしゃがみこんだ。

「何なのよ。」
「今日のノルマは?」
「私の気が済むまで。」
「……。」

 あいつは呆れたような顔をして、私の腰に下げた袋を見る。

「いつもより多くないか?」
「もうすぐお祭りがあるから、これじゃ少ないわよ。」
「祭り?」
「ああ、去年の終わりに来たんだっけ?」
「……。」

 私は面白くないと顔に書かれているあいつを見ながら一人納得する。
 もうすぐすればお祭りがある。
 そのお祭りで一つのジンクスがある。
 それはお祭りの日の満月の夜に静かな海岸で貝殻のアクセサリーなどを交換すれば、二人は結ばれるという、そんなおまじないだった。
 まあ、くだらないような気もするけど、それでも、うちの両親はそれで稼いでいるのだから文句はあまり言えない。

「どんな祭りなんだ?」
「どうなって、月と海に対して感謝をするお祭りかな?」
「……月と海?」
「ええ、海は母なるもの、月もまた女性を司るもの、つまりは女性に感謝するというお祭りね。」
「ふーん。」

 関心のなさそうな彼に私は溜息を零す。

「何よ、貴方から聞いてきたんでしょうが。」
「まあ、そうだが、何で女性に感謝するのかがいまいち分からない。」
「ここは港、男たちは海の向こうに行くのよね、だから、それを待つ女性に対し、男たちは感謝するというものなのよね。」
「……。」

 何を考えているのか、真剣な顔をしている彼に私は驚いたが、それを表情に出さないように努めた。

「待っているのはつらいでしょうね。」
「……。」
「海は常に安全という訳じゃない。」

 ゆっくりと貝を拾い、砂を払う。

「いつ、命を落としても可笑しくない。」

 綺麗になった貝を袋に仕舞い、私は仕事を終える。

「女は強いのよ、待つ、強さを持っている、だから、その強さを称えているのだと私は思っているの。」
「お前は……。」
「ん?」
「お前は待つ奴がいるのか?」

 あまりにも真剣な顔をするこいつに私は目を丸くさせる。

「いないわよ。」

 私がそう言えば、何故かホッとしたような、でも、どこか悲しげな表情を浮かべる彼に私は何とも言えない気持ちになる。

「……そうか、そうだよな。」

 一人納得する彼は立ち上がると私に手を差し出した。

「えっ?」
「手。」

 訳が分からず首を傾げているとぶっきらぼうに彼は言う。

「手?」

 訳が分からず私は拳を作り彼の手の上に置いた。

「……誰も、お手とは言っていないが…。」
「あっ…。」

 呆れた表情を浮かべる彼に私は何故、自分がお手のポーズをするのだと顔を真っ赤に染める。

「ほら。」

 私の差し出した手首を掴み、彼は無理やり私を立たせる。

「帰るんだろうが。」

 力強く、でも、決して私を傷つけない力加減で彼は私の手を引いていった。

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あきゅろす。
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