捧げもの
『旋風の少年』
彼女は元気にしているだろうか?
俺は幼いころから帰る場所なんてなかった。
知らない街に行って、己の相棒で金を稼ぐ生活をしていた。
そんな時、俺は初めて相棒を使わないで金を稼ぐという事をした。
そこで出会ったあいつはあの街そのものだった。
明るく。
快活で。
暖かく。
優しい奴だった。
あいつは決して俺に靡く事はなかった。
あの時、俺は賭けに出た。
あいつは俺の手を取る事はなかった。
彼女は悲しげに微笑んでいたけど、その眼は強い意志を宿していた。
ああ、彼女の生き様はこの街そのものだ、決してよそ者の手には落とされない強いものだった。
彼女はもう、俺の事など忘れてしまっただろうか……。
でも、彼女の最後に零した言葉、それは今も忘れていない……。
――さようなら
それは俺に対して言ったものだろうか?
***
彼女と出会ったのは俺が十六の時だった。
長い髪を靡かせ、意志の強い瞳に俺は一目ぼれした。
その後は猪のように彼女に告白をしたのだが、彼女は一度も首を振らなかった。
それは縦にも、横にも振らなかった。
俺はそれをいい事に彼女に付きまとった。
今思い返したら若かったのだと、思う。
今は彼女に冷たくされると考えたら躊躇する。
当時の俺は旅の途中だった。
だから、彼女に一度として、傍に居るとは言えなかった。
それは彼女も望んでいたことだ。
あいつの目は言っていた。
『嘘を吐くくらいなら…何も言わないで……分かっているから』
そう雄弁と語る瞳に俺は甘えていた。
それが悪かったのか、俺と彼女は決して恋人になる事にはならなかった。
俺が一歩でも踏み出していれば、今の関係は変わっていたのだろうか?
いや、もう過ぎた事だ……。
あいつに惚れていたのは嘘なんかじゃない。
だけど、一歩踏み出す勇気がなかった俺。
何も言わせなかった彼女。
俺の恋心は、今はどこに眠っているのだろうか……。
もし、全てが終われば……。
もう一度あの街に寄ってみよう。
彼女と会えば何か掴めるかもしれない。
だけど、それは何年後だろうか?
何年。
何十年、
それは俺自身にも分からないけど、それでも、いつか、この身が無くなり風となっても彼女のいる街に行ってみよう。
あそこには必ず、彼女がいるのだから。
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