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捧げもの

 しばらく私が歩いていると、後ろから足音が聞こえた。

「……。」

 ここ最近私の行く先々で後ろから足音が聞こえるのだ。
 初めは気の所為だとか、疲れているのだと思った、しかし、何となく気味悪くなり私が走るとその足音も私を追うように走って来たのだ。
 決定打だった。でも、私はそれを誰かに相談する事はなかった。

 だって、危険だからだ。

 もし、相手が武器を持っていたら。

 もし、相手が危ない人間だったら。

 そんな事を考えたら誰にも相談する事が出来なかったのだ。
 私は逃げるように走ると前を見ていなかったのか、私は誰かにぶつかった。

「ご、ごめんなさいっ!」
「お前な…ぶつかったのが俺だからよかったものを。」
「あ……。」

 私がぶつかったのは彼だった。
 そして、彼だと認識した私は気づいたら目の前が歪んで見えた。

「おい、泣くほどの事かっ!」

 驚いている彼に私は何か言わないといけないと分かりつつも、言葉が出ず、代わりに嗚咽が私の口から洩れる。

「たく……。」

 彼は私の頭を片手で押さえ、自分の胸に私の顔を押し付ける。

「泣けよ…。」
「う……うう……。」

 声を殺して泣く私に彼は黙って私の頭を撫でる。
 この時私は気づいていなかった。
 彼が私を追い詰める見えない影を睨んでいた事を……。
 この時の私は自分の事だけで精いっぱいだったのだ。

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