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ダークネス・ゲーム

 今回の敵は着ぐるみだった。

「……何とまぁ、やる気の出ない相手……。」

 友梨は脱力の所為で、ナイフを持つ手を緩めた瞬間――。

「えっ!」

 友梨が予想していなかった速さで、着ぐるみは友梨に突進してきた。

「げっ!」

 友梨は反射的に後ろに飛んだ。
 友梨を襲ってきたのは間抜け顔の犬…のような着ぐるみで、その手には鉈が握られている。

「こ、殺す気満々?」
「それは当然でしょうね。」

 冷ややかな声が友梨の耳に届き、友梨は顔を顰めた。

「智里……。」
「あら、何かしら?」
「黙っててください。」
「嫌よ。」

 友梨は口を開きながら徐々に態勢を整え始める。

「あんたっていつもそうよね。」
「何がかしら?」
「冷静に分析して、本当にいらない事を口にする。」
「あら、わたしは必要な事しか話していないわよ?」
「どうだか。」

 友梨は気付いていないのか、それとも気付いていても無理矢理気付かない振りをしているのか、分からないが、彼女は智里と話すごとに落ち着きを取り戻している。

「それにしても、今回は物騒なモノを持った間抜け顔ばっかり。」
「ふん。」

 智里に意見に友梨は鼻を鳴らす事で同意する。

「鉈に鎌に鋤に、鍬ね、農具ばっか。」

 クスリと微笑む智里に友梨はうんざりしような顔をした。

「あんた楽しそうね。」
「ええ、他人事ですからね。」
「……性格悪い。」
「あら、褒めてくれてありがとう、お・ね・え・ちゃ・ん。」
「褒めてなんかないわよ!」

 友梨は叫びながら犬が振り翳した鉈を受け止める。

「くそっ!」
「それにしても、ときめくような顔じゃないのは本当に残念ね。犬に猫、ねずみにアライグマ?」
「知らないわよ!」

 友梨は叫びながら力いっぱいに鉈を弾き飛ばした。

「あら、馬鹿力ね。」
「うっさい!!」
「まあ、酷いお姉ちゃんですこと。」
「嘘臭い。」

 友梨は容赦なく犬の着ぐるみに向かって蹴りを入れ、着ぐるみが体勢を崩した瞬間首に向かって再び蹴りを入れる。
 犬の首は友梨の蹴りによって見事に飛んで行き、残された胴体には首がなくかなり不気味な光景となった。

「グロイ……。」
「気持ち悪いわ。」

 顔を顰める高田家の長女と次女は珍しく意見があったようだ。

「お姉ちゃん、もっと潰すんならマシな形にしてよね。」
「でも、こうじゃないとまだ戦おうとするようよ?」
「……ふぅ、本当に嫌な変態ね。」
「同感。」

 友梨は昌獅や勇真が倒しているそれぞれの着ぐるみを見ていた。
 友梨が言うように確かに彼女が潰した元犬の着ぐるみは動かなかったが、勇真たちが戦っている着ぐるみは腕をもがれても、頭部を貫かれても動いているのだ。

「面倒ね。」
「そうね。」

 戦っている友梨だけが言うのは分かるが、何もしていない智里がそう言うのは本の少しばかり違和感を覚えた。

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