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ダークネス・ゲーム

「んで、そのリョウくん、とは友達なの?」

 お茶をすすりながら、友梨が尋ねると、美波は首を傾げた。

「どうなんだろう?」

 訊いたのはこっちだ、という目で友梨は美波を見るが、彼女は全く気付いていない。

「……まあ、美波のボケは今始まったことじゃないからね。お姉ちゃん、話を進めていこう。」
「そうね。」
「それで、美波は一体どうやって、連れて行かれて、ここに来たの?」

 智里が尋ねると、美波は困ったような顔をした。
 友梨はそれに気付いていながらも、偶然目に入った壁を凝視してしまっていた。

「お姉ちゃん?」

 美波が友梨の視線に気付き、友梨は苦笑いを浮かべた。

「ん、何でもない。」

 無理やり視線をどうやって焦がしたのか分からない壁から逸らした。

「美波、話して。」
「うん……。」

 美波はポツポツと昼食時の時の――襲われた時の――話をした。
 友梨たちはその話に耳を傾けながら、胸の内で【ルーラー】を罵っていた。
 そして、美波はリョウくんの話のくだりまで話し、一瞬言葉が途切れた。

「美波?」
「どうしたの?」

 二人は不思議そうに聞いた。

「……リョウくんの名前…忘れちゃった……。」
「はい?」
「……はー…。」

 てへへ、と困ったように笑う美波に二人は全く違う反応を見せる。友梨は目を見開き、智里は溜息を吐く。

「えーと…リョウイチ…でもないし、リョウスケ…でもなかったよね………えーと……。」

 必死で思い出そうとしているのは友梨達にも伝わるが、それでも、彼女たちはリョウくんの名前など知らないので、結局は何も口にしなかった。

「……もう、いいわよ。」

 溜息とともに出された言葉には疲れが見え隠れしていた。

「どうせ、わたしたちにはどんな人なのか分からないのだし、話を戻してちょうだい、美波。」
「えー、でも……。」
「智里の言うとおりよ、取り敢えずは情報交換。」

 まだ躊躇している美波に友梨は疲れきった声音で言った。

「うん……、あたしね、あの変なロボットに気絶させられてからの記憶が、ほとんどないの。」
「……。」
「……。」

 友梨と智里は疲れなど忘れたのか、神妙な顔で美波をじっと見詰めた。

「ただ……眩しい部屋の中で、何かが蠢いていて……、恐かった……恐かったよ……。」

 その時の記憶を思い出しているのか、美波の体が小刻みに震えている。

「……大丈夫よ。」

 友梨はそっと手を伸ばし、美波の肩にそっと手を置く。

「私たちが、側にいる。」
「友梨、お姉ちゃん……。」
「そうよ、もし、美波また手を出そうとすれば、容赦なく地獄に落すから安心して。」
「智里お姉ちゃん。」
「……。」

 感動している美波を見詰めながら、友梨は顔を引き攣らせている。

「智里、あんたまた、恐ろしい事を……。」
「あーら、何処が恐ろしいというの?わたしのモノに手を出すものは容赦なく地獄に落す、これは「自業自得」なのよ。」
「……あんたは悪魔だわ。」

 ぼそりと小さく呟いた言葉に、地獄耳…じゃなかった耳聡い智里は勿論気付いていた。

「何か言った?お姉ちゃん?」
「いいえ、何でもない!!」

 殺気を隠そうとはしない、智里に友梨は激しく首を振った。

「そう……。」

 残念そうな表情で言う智里に友梨は頬を引き攣らせた。

「ま、まさか、寝ている間に……。」
「そんな「寝首を掻く」なんて事はしないわ、今は。」
「――っ!?」
「うふふ……。」

 不気味に微笑む智里に友梨は思わず、顔を背けた。

「まあ、冗談はここまでにして、取り敢えず、あいつが言う《第一ステージ》とやらはクリアしたわね。」

 自信満々に微笑む智里はまるで、どこかの悪役のような冷然とした空気を宿していた。

「さーて、あいつをぶちのめすために、力を合わせましょうか、お姉ちゃん、美波。」

 微妙に趣旨が変わっているのだが、それを指摘するだけの気力が友梨には残っていなかった。
 そして、三人にとって長い一日が終わったのだった。

第二章(完)

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