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ダークネス・ゲーム
10
 友梨は智里と涼太が最後の蜘蛛をやっつけた事には感謝するが、それと、これとは話が別で、無茶をしでかした妹に腹を立ててもいた。

「智里、これ以上無茶をしないで!!」

 友梨はそう言うと、奈津美の攻撃を受け流した。
 彼女はその動きを予想していなかったのか、簡単に体勢を崩した。
 友梨は一瞬反撃に出ようと思ったが、すぐに、自分の中で警鐘が鳴った。

「――っ!」

 友梨は一瞬手を止めて正解だと悟った。
 奈津美が体勢を崩したのはわざとだった、もし、友梨があのまま攻撃していれば彼女の腕はなくなっていた事だろう。
 奈津美の手には鋭利な刃物が握られていた。

「…油断ならないわね。」
「それは。お互い様でしょ?」

 奈津美はクスリと微笑んだ。

「…わたしにしたら、貴女の方が貴女の周りのどんな人間よりも油断なら無いわ。」
「貴女は…誰?」

 友梨は挑むように彼女を睨んだ。

「…さあ、分からない…。」
「……。」
「わたしは作られしモノ…、だから、名はない。」
「やっぱり…。」

 友梨は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「…もう一つ、貴女は何故始めに「昌獅」、「勇真」と言ったの?」
「主が言ったから。」
「あの変態…。」

 友梨はもし、目の前に【ルーラー】が居れば絞め殺したいと目で訴えるほどの怒気を露にする。

「……それで、質問は終りかしら?」
「ええ。」

 友梨は顔を引き締め、残る武器を確認する。
 彼女が持っているのはナイフが計三本。たったそれだけだった。

「……いざ…。」
「勝負っ!」

 二人は同時に攻撃を仕掛けた。
 友梨は持っていたナイフの中で一番長いものを選び、それを繰り出し。
 奈津美は素手で彼女の頭を狙った。

「く…。」

 友梨は命の危険を察知し、身を屈め、寸前の所で奈津美の攻撃を避けた。

「あら…。」

 奈津美は友梨が避けた瞬間に目を細めた。

「甘いわね。」

 その一言と共に奈津美の蹴りが炸裂する。

「くあっ!」

 友梨は反射的にガードするが、彼女の体は簡単に吹き飛んでしまった。

「……降参する?」

 奈津美は目を細め、腹を抱え蹲る友梨を無情に見下ろす。

「誰が……。」

 友梨は怒りという炎をその目に宿し、睨みつける。

「誰が降参するものですかっ!」

 体をゆっくりと起す瞬間、友梨は小さなナイフを一本彼女の目に向かって投げた。

「そう…。」

 奈津美は首を傾げ、友梨の放ったナイフを避けた。

「それなら、死ぬ?」
「……誰が…っ!」
「…あら、困ったわね。」
「全然困らないわ。貴女が負ければねっ!」

 友梨は自らの体を無理矢理起し、奈津美に蹴りを入れる。

「……まあ。」

 奈津美の感嘆の声がその場に響く。

「……何で…。」

 友梨の目がこれ以上ない程大きく見開かれる。

「何で……。」
「……凄いわね…。」

 奈津美は目を細め、そして、己の腹を見下ろす。

「……友梨…遅くなった。」
「何でっ!」

 友梨は今自分の目にしている光景に目を疑った。

「昌獅っ―――――――!」

 昌獅はいつの間にか奈津美の背後に回りこみ、奈津美の背から刀を突き刺した。
 刀は奈津美の体を貫き、腹から銀色に光る刃が飛び出ていた。

「……消えろ、偽者…。」

 昌獅は感情の篭らない目でそう言い放つ。

「……偽者ね…。」

 奈津美は急に狂いだしたかのように笑い出した。

「そうね、貴方たちにとってわたしは偽者…でも、わたしにとっては「わたし」がオリジナルなのよ。」
「…だが、偽者は偽者だ。」
「そう思いたいだけなのね、「昌獅」。」
「――っ!」

 本物の奈津美のように名を呼ばれ、昌獅の顔に罪悪感、悲しみ、恐れが浮かぶ。

「「昌獅」…痛い…、お願い、それを抜いて……。」

 友梨はこの瞬間彼の気持ちをもてあそぶ、それに怒りを感じた。
 先程まではそれには怒りを感じていなかった。ただ、それを作った【ルーラー】に対してだけの怒りだった。

「く……。」

 昌獅は反射的に刀を抜こうとした右手を左手で阻止した。

「……貴女も…あの変態と同じなのね。」
「……何の事?」
「人の気持ちを踏み躙る。」
「……友梨?」

 昌獅はどこか、友梨に縋るような目で彼女を見た。
 友梨は彼が辛いのだと悟った。
 それもそうだろう、彼女だって、妹たちや友人たちがこうして、完全に敵に回れば躊躇する。
 第一ステージの時…美波の場合は今回と違った。あの時は美波を取り戻せる、唯一の手段だった。
 だが、今回は全く異なる、彼女はもう既に亡くなっている。死者を冒する事を【ルーラー】はしでかし、さらに、生きている人の心を傷つけた。

「許さないっ!」

 友梨はナイフを素早く投げ、それらで奈津美の心臓部位と眉間に向かって投げた。

「………マ…サカ…。」

 奈津美の口から発せられるのは先程とは違う機械の声だった。

「…ワタシ…ガ…ヤラレ…ル…ナンテ…。」

 友梨は無表情のままそれを見る。

「あんたが悪いのよ。」
「……。」
「あんたが、昌獅や勇真さんの気持ちを踏み躙った。」
「……。」
「それが、私の怒りの導線に火をつけた…。」

 完全に機能が停止しているのか、奈津美の瞳に光がなくなる。

「貴女が…本物の奈津美さんと同じだったら、私だって、戦えたとは思えない。」
「友梨?」
「だって、本物は…勇真さんへの愛や…昌獅への家族愛があったはずだから…、部外者の私が傷つけることが出来ない。」
「……。」
「偽者だから…私はこれを傷つけることが出来た…。昌獅…ごめんなさい。」

 唐突に謝ってきた友梨に昌獅は目を剥いた。

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あきゅろす。
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