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ダークネス・ゲーム

 しばらくして、外の方から足音が聞こえ、少年は体を強張らせた。

「どうしたの?」

 まだ異常事態を悟っていない少女は不思議そうに首を傾げた。

「誰かが来る。」
『やあ、待たせたね。』

 男とも女とも判別できない声の人型のロボットに、少年は少女を庇うように前に出た。

『おや、おや、仲良くなったみたいだね。』
「お前は誰だ!」
『わたしはそこの少女のお姉さん達には『支配者』【ルーラー】と名乗った。』
「お姉ちゃん!」
『ほお、気になるのかな?』

 少年は背に少女を庇いながら、それを睨む。

「気になるに決まってるじゃねえか。」

 口角を持ち上げ少年は笑った。

「あんたが何のために、オレたちをとっ捕まえたのか。」
『ただの遊戯さ。』
「遊戯…だと?」
『そう、この【エリア】の住人達を捕まえ、そして、それを助ける者たちの命をかけたゲーム、暗黒の遊戯【ダークネス・ゲーム】さ。』
「「ダークネス…ゲーム……。」」

 二人はただならぬ気配を感じながら、そう同時に口にした。

『そして、さっそく【駒】たちに試練を与えなければならない。』

 少年は無意識に数歩後ろに下がった。

『おや、勘の良い少年だね。』

 くくくと喉の奥から笑った声がスピーカーから漏れ、少年は顔を歪める。

『そう…手始めにその少女を使おう。』

 ロボットの手が少女に向かって伸び、少年は庇おうとする。

「美波!!」
「リョウくん!」

 少年は振り返り、少女を抱き締めるようにそれから彼女を守った。

「くっ!」

 ロボットの手が少年の肩を強打し、少年はうめき声を上げ、少女は目に涙を浮かべた。

「リョウくん……。」
「大丈夫だ。」
『麗しい愛だね、でも……。』

 ロボットは容赦なく、少年を払い除けた。

「リョウ!!」

 少女は少年に駆け寄ろうとするが、ロボットの手が彼女の動作を妨げた。

『残念だったね。』

 笑い声がスピーカーから漏れ、少女はギロリと睨んだ。

『おや、おや、ほんの少しの時間なのに、そんなにあの見知らぬ少年が気になるのかな?』
「……。」
『まあ、いいさ、君は実験体第一号だから、教えてあげよう。』

 表情があるはずもないロボットが一瞬ニヤリと笑った気がして、少女は体を強張らせた。

『君はね、わたしの実験で【傀儡】になってもらい、そして、君達のお姉さんと戦ってもらうよ。』
「――っ!」
「ま…て……。」

 擦れた声がロボットと少女の間に入る。

「リョウ……くん?」
「美波を、連れて行くな……。」

 ゆらりと立ち上がる少年はとてもじゃないが、戦えるようには見えなかった。

『勇ましい騎士だね、でも、残念だったね。』

 ロボットはそう言うと、少女の首元に手刀を入れ、彼女を気絶させる。

「美波!」
『この子は大切な【傀儡】だから、誰にも渡さないよ。』
「待てっ!!」

 今にも去っていきそうなロボットに手を伸ばすが、少年の体は彼が考えていた以上に痛めつけられ、これ以上動く事が出来ず、その場にうずくまった。
 ロボットは少年を一瞥し、そして、踵を返した。

『またね、少年次ぎ会う時は、君が【傀儡】になる番だよ。』
「みな……み。」
『じゃあ、良い夢を――。』

 無情に閉められた扉の音に、少年は力なく睨んだ。

「くそ……。」

 目の前で泣く少女を守ってあげられなかった。

 自分の名を叫ぶ少女の手を握る事ができなかった。

 ボロボロになった体。

 ずたずたになった心。

 今少年を突き動かす力はなんだろうか?

「ごめん…ごめん…。」

 少年は目に涙を浮かべながら、何度も、何度も謝った。

「美波……。」

 少女の名を口にした時には口の中は自分が噛んで傷つけた傷口から流れる、血の味が広かった。

幕間(完)

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あきゅろす。
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