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ご飯も食べず、オレは悠の手を引いてショッピングモールを出、駅周辺に立ち並ぶホテル街に入ると一つのホテルで脚を止めた。


「……壱也?」


不安気にオレを見上げる悠に、真剣な目を向ける。


「…悠が欲しい」


今までずっと拒まれてきた。

たつきを忘れられないのは仕方のない事で、身体をモノにしようとは本気で思ってはいなかった。


オレだって、優を忘れられていないから。



一時の感情で流されてる事くらい自分でも分かっているよ。


でも、オレの身体が悠を欲しいと思ってるんだ。





また断られるかもしれない。



だから、



より真剣に、本気なんだと、オレは悠を見据えた。




「いいよ」




そう言った悠は、意志の強い目でオレを見て、小さく、でも、確かに頷いた。

悠の手を引き、ホテルの中へと入る。

空いている部屋のボタンを押し、受付の小窓にルーム料金を置いた。中に居るおばさんからルームキーを取り、エレベーターへと向かう。

利用の少ない時間帯で、エレベーターは直ぐ開き中へ乗り込んだ。
部屋がある階のボタンを押し、目的の階まで行く間、オレは悠から視線を外さなかった。


今ならまだ間に合う。


今なら、引き返してもいい。


そう思いを込めて悠を見ていた。


でも、悠はオレをジッと見つめ、引き返す素振りすら見せない。


ただ、緊張か不安からか、繋いだままの悠の手に力が込められている事に気付いたオレは、自然に笑みが零れ「大丈夫。オレを信じて」と、言っていた。


驚く程ごく自然に。


でも、何が"信じて"なんだろうね。




簡単に口から出た自分の言葉に、嫌気が差すよ。






目的の階に着き、悠の手を引いてエレベーターを降りる。

部屋へと進む脚が速くなっていたのか、廊下にパタパタと小さな靴音が響いていた。


「悠、大丈夫?」


部屋の前に着き、鍵穴にルームキーを差し込んだけど、開ける前に悠に尋ねた。


「あ…うん。平気平気!!」


笑いながら言っているけれど平気じゃないんだろう。


悠の眉が若干歪んでる。でも、オレは引く気にはなれなかった。


ドアを開け、中へと悠を連れて行く。


別に、ホテルが初めてではないけれど、淡いブルーの照明がやけにソレらしい雰囲気を醸し出していて、オレは久々に緊張した。


「…何か、凄いな」


悠は初めてなのか、部屋をキョロキョロ見回している。


何か、新鮮で良いな。


優は、慣れてたからね。


「初めて?」

「わ、悪かったな!!」

「誰も悪いなんて言ってないよ。悠の初めてがオレで嬉しい」


初めてがオレでごめんね。



本当は、たつきが良かったよね。




だから、オレは…




―――――悠を、優として抱くよ。



悠も、オレをたつきだと思えばいい。



「……うわっ!?」


悠の手を思いっきり引いて、ベッドに寝かせた。


淡いブルーの照明がオレの背で遮られているのか、悠の顔がハッキリとは見えなかった。



ごめん。



…悠。



君が欲しいと思ったけど、でもソレはやっぱり似ているからだ。

ロビーでキスをした時、悠の顔が優に似ていたから錯覚してしまったんだよ。



欲しいと思ってしまったんだ。



「優、好きだよ。オレは優だけだから…


愛してる」




この言葉を君に向けられそうにない。



オレが好きなのは優だけ。



優だけなんだ。








そう自分に言い聞かせながら、オレは覆い被さる様にして悠を見下ろした。







優、悠、優…








オレは、悠の向こうで、優を見ていた。










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