11 ご飯も食べず、オレは悠の手を引いてショッピングモールを出、駅周辺に立ち並ぶホテル街に入ると一つのホテルで脚を止めた。 「……壱也?」 不安気にオレを見上げる悠に、真剣な目を向ける。 「…悠が欲しい」 今までずっと拒まれてきた。 たつきを忘れられないのは仕方のない事で、身体をモノにしようとは本気で思ってはいなかった。 オレだって、優を忘れられていないから。 一時の感情で流されてる事くらい自分でも分かっているよ。 でも、オレの身体が悠を欲しいと思ってるんだ。 また断られるかもしれない。 だから、 より真剣に、本気なんだと、オレは悠を見据えた。 「いいよ」 そう言った悠は、意志の強い目でオレを見て、小さく、でも、確かに頷いた。 悠の手を引き、ホテルの中へと入る。 空いている部屋のボタンを押し、受付の小窓にルーム料金を置いた。中に居るおばさんからルームキーを取り、エレベーターへと向かう。 利用の少ない時間帯で、エレベーターは直ぐ開き中へ乗り込んだ。 部屋がある階のボタンを押し、目的の階まで行く間、オレは悠から視線を外さなかった。 今ならまだ間に合う。 今なら、引き返してもいい。 そう思いを込めて悠を見ていた。 でも、悠はオレをジッと見つめ、引き返す素振りすら見せない。 ただ、緊張か不安からか、繋いだままの悠の手に力が込められている事に気付いたオレは、自然に笑みが零れ「大丈夫。オレを信じて」と、言っていた。 驚く程ごく自然に。 でも、何が"信じて"なんだろうね。 簡単に口から出た自分の言葉に、嫌気が差すよ。 目的の階に着き、悠の手を引いてエレベーターを降りる。 部屋へと進む脚が速くなっていたのか、廊下にパタパタと小さな靴音が響いていた。 「悠、大丈夫?」 部屋の前に着き、鍵穴にルームキーを差し込んだけど、開ける前に悠に尋ねた。 「あ…うん。平気平気!!」 笑いながら言っているけれど平気じゃないんだろう。 悠の眉が若干歪んでる。でも、オレは引く気にはなれなかった。 ドアを開け、中へと悠を連れて行く。 別に、ホテルが初めてではないけれど、淡いブルーの照明がやけにソレらしい雰囲気を醸し出していて、オレは久々に緊張した。 「…何か、凄いな」 悠は初めてなのか、部屋をキョロキョロ見回している。 何か、新鮮で良いな。 優は、慣れてたからね。 「初めて?」 「わ、悪かったな!!」 「誰も悪いなんて言ってないよ。悠の初めてがオレで嬉しい」 初めてがオレでごめんね。 本当は、たつきが良かったよね。 だから、オレは… ―――――悠を、優として抱くよ。 悠も、オレをたつきだと思えばいい。 「……うわっ!?」 悠の手を思いっきり引いて、ベッドに寝かせた。 淡いブルーの照明がオレの背で遮られているのか、悠の顔がハッキリとは見えなかった。 ごめん。 …悠。 君が欲しいと思ったけど、でもソレはやっぱり似ているからだ。 ロビーでキスをした時、悠の顔が優に似ていたから錯覚してしまったんだよ。 欲しいと思ってしまったんだ。 「優、好きだよ。オレは優だけだから… 愛してる」 この言葉を君に向けられそうにない。 オレが好きなのは優だけ。 優だけなんだ。 そう自分に言い聞かせながら、オレは覆い被さる様にして悠を見下ろした。 優、悠、優… オレは、悠の向こうで、優を見ていた。 ←→ [戻る] |