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初めて聞いた悠の本音。


初めて見た悠の涙。


気付いたら、オレは悠の頬に手を伸ばしていた。


「……悠」


大きな目から溢れる涙を、オレなりに優しく拭ってやる。


無性に、キスしたくなった。

悠の顔に少しずつオレの顔を近付け、後少しでふっくらとした唇に届くと思った時、目の前で火花が散った。左の頬がジンジンして、叩かれたのだと気付く。


「…何のつもりだよ?」


何のつもり?


………本当だ。


何のつもりでオレは…


「…ッ……冗談だよ。して欲しそうに見えただけだ」


また、馬鹿らしい発言。
何故こんな事が平気で言えるのだろうか。


「っざけんな……誰がお前なんか…樹紀なんかとッ……!!」


酷く傷付いた顔で屋上を去る悠の背中に向けて、振り向く筈もない名前を呼んだ。


「………悠っ!!」


呼び止めても、きっと何も言えない。

言えないけど、このまま悠はオレの前から居なくなる気がして呼ばずにはいられなかった。


「………悠」


夢………じゃなかった。

叩かれた頬が痛いな。
自分から悠を離しておいて、何をしようとしてるんだ。


「ハハッ…」

乾いた笑いが、屋上に響いた。



「………オレは、一体何がしたいんだ?」





………………………………




屋上の件から一ヶ月

当たり前の様にオレの隣に居た悠は、オレの隣から居なくなった。




その代わり、悠の隣にはオレの知らない奴が当たり前の様に悠の隣に居た。






まだ、この時のオレは自分の気持ちと、何が大切かなんて知りたくもなく、再び同じ過ちを繰り返す事になるなんて思ってもいなかった。



あの時、屋上で悠と話した時、素直に認めて受け入れるべきだったんだ。




なら、これから起きる事こそが、夢になっていたかもしれないのに…





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