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メモリーカード (綱吉)




出来ることなら全てを記憶に留めておきたかった。

静かな部屋で綱吉は誰に対してでもなく、呟く。
窓から入り込む風は自分が生まれ育った場所のものではない。
この風を浴びるたびに綱吉は随分遠いところまで来てしまったものだと思い知らされるのだ。
神様がいるというのならばそれは随分と性格が悪いのだろうと、綱吉は以前力なく笑ったことを覚えている。
話し相手が露骨に嫌そうな顔をしていたことも。


「他に地位を欲しがった人は数多に在っただろうに」


けれど。最終的にその地位を望んだのは自分だった。実力と周囲の環境と、掛替えのない仲間と、様々な思いつくもの全てを天秤にかけて考えて、選んだ。後悔をしていないとは言わない。言えないけれど、これでよかったのだとこころのどこかで安心していたのもまた事実。


「………」


自分がボンゴレ後継者であることが発覚して手に入れたものと失ったものを考えた。
駄目、であったはずの自分。友達もなくにたったひとりの女の子に会うために学校に通っていたあの頃は今でも思い出せる。仲間を得て、いろいろと問題を起こしながらも事件に巻き込まれながらも楽しんでいたあの頃も、思い出せる。
けれど、鮮明ではない。
どんなに願おうともあの頃には戻れないのだ。時間が過ぎ去っただけではない。

(ひとつ、一度でも手を染めてしまえば)


フィルターのように赤い膜が邪魔をする。あの日に戻らせないと。境界を越えてしまったお前はもう元には戻れないのだと、そんな権利持たないのだと、激しい警鐘が頭の中に響き渡る。
そしてそれを一番理解しているのは悲しいことに自分自身だと綱吉は知っていた。


「そろそろ、一度日本に帰りたいなぁ」


帰らないといけない気がした。大切なあの頃さえ薄れてしまったら自分を支えるものは崩れ去る。
今を生きる自分が、過去に生きた場所にすがりついていなければ脆く崩れ去りそうな気がしてならないのは、弱いからではなくてそれだけあの騒がしくも優しかった日常が愛すべきものであったのだと信じたい。



メモリーカード


未来ボンゴレ。綱吉。
幸せだった日々を幸せな日々を記憶を忘れずにいたいと願っている。
記録ではなく褪せない記憶を望んでしまった。




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