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天邪鬼の憂鬱 (ベルとマーモン)




ぎゅう。

不意に後ろから抱きつかれた。正確には抱き寄せられた。
自分が背後をとられて反応しきれない相手など数えるほどだ。
すぐにその正体に気付いて、抗議の声をあげる。


「ベル、苦しい」


身体にかかる圧力に耐えかねて、逃れようと身体をゆすって抵抗すれば、さらに力を込められた。


「酷いなー。同僚が落ち込んでるのに慰めてくれないわけ?」
「ううん。でもベルこそ大事な同僚を絞め殺すつもり?力を緩めてよ。誰かの腕の中で轢死なんて死に方、ごめんだよ」



細身なくせにある程度の握力のある(体格差だけで圧倒的に自分が不利だ)相手に加減なく抱きしめられると骨が軋む。
本気でないにしろ結構苦しくて非難を込めてそう言えば、力が緩んだ。
その隙に腕を振り払って逃げることもできたけれど、そうしなかったのは結局自分が彼に甘いからかもしれない。
じわりと伝わってくる彼の温度が妙に安心できたからではない。そんなこと全然関係ないはずだ。



「で、どうしたのさ?」


またスクアーロいじめてボスに咎められた?
冗談交じりにきけば「そんなんじゃないよ」とベルが少しだけ笑ったのが気配でわかった。それっきり口を閉じたベルはどうやら何も話す気はないらしい。
なにもいわないまま、また手に力を込めてくる。だから苦しいってば。ひとの話ちゃんと聞いてた?
あぁもう、仕方ないなぁ。




「特別だからね」
「ありがと」



何も聞かずにそう言ってやれば珍しく素直な答えが返ってきた。
滅多に他者に弱みを見せない彼が弱みを見せるのは自分だけだと知っているから。たまにはこういうのもゆるしてあげよう、と思った。











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