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飴玉の紡ぐ幸せ (雲雀とイーピン)





「疲れているときには果物の酸味がいいとランボが言っていました」

部屋を訪れてきた少女は雲雀にとって懐かしい顔で、確か今は日本で勉強をしているはずだった。
黒い二本の長い三つ編みを揺らしながら少女は手に持っていた盆を机の上の比較的空いているスペースに置く。
記入を終えた分厚い書類を整えて積み上げた雲雀は眼前に置かれた盆を眺めた。
盆の上にはグラスに入った炭酸水と白い皿。
皿の上には綺麗に剥かれたオレンジとグレープフルーツが並んでいる。
炭酸に浮く厚いレモンの輪切を見てから雲雀はイーピンに向き直った。

「さっきの。酸味のあるものが、何?」
「疲労にいいらしいです」

雲雀にしては柔らかな語気の質問にイーピンは気を緩めたようにゆるりと微笑む。
出来上がった書類を盆の代わりに抱えあげて。

「…皆さんそうですが、雲雀さんもお疲れのようだったので、気休めですが」
「………」
「普通の珈琲やお茶の方が良かったですか?」
「…いや。これでいい」
「それは良かったです。じゃあこれも」

イーピンは書類を持っていないほうの手をポケットに入れ、握り拳を雲雀の前に差し出す。
そのまま指を開くと何かがぱっと落下した。
それを雲雀は反射的に捕まえる。

「しあわせ、のお裾分けです」

短く言って、イーピンは身を翻す。
あっという間に部屋から姿を消した少女の残した物に雲雀の視線は釘付けになった。

「何、…」

雲雀の手の上に覗くのは、幾つかのセロファンの包み。
色のついた透明の包み紙の中には小さな飴玉の姿。

「…全く、何考えているんだか」

そう言って呆れながらも雲雀の唇は無意識に弧を描く。
それを阻止するようにポケットに飴玉を捩じ込んで雲雀は冷たい飲み物へと手を伸ばした。






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