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7.ディアボラス・イン・ムジカ-ステイン・オブ・マインド-唯一の汚点
「プロシュート、お前もギャングになって10年になる…」

今から8年前、プロシュートが16歳の時、これまで何かと彼を眼にかけた幹部
ー彼は8年後の現在はすでに死去しているー
灰色の髪に銀の杖を携える老人に呼ばれ、彼は腕を組んで向かい合っていた。


「…お前は実によくやってくれた。
常に勇気を持ち、命をかけて我々パッショーネに尽くし、期待を遥かに上回る働きをしてくれた…。

しいては、お前に入会の儀式を行い、近日中にパッショーネ構成員に正式に迎えいれようと思う。

だがな、その前にお前は両親に会って、産んでくれた感謝を意を込めて挨拶をしにいくのだ」


正式に構成員になれる話の時は目をわずかに光らせたプロシュートだが、両親のくだりを聞いて一気に眉をしかめる。

彼は、両親、その言葉を聞くだけで非常に不愉快な気分になっていた。




「ジジイ、冗談で言ってるのか…?
ボケやがったか?
オレがギャングになった理由、年のせいで忘れたのかよ。

あのクソ共の面倒を見るよりはギャングの方が遥かにマシだと思ったからだってな」


この無礼な口を利くプロシュートに老人は黙って微笑む。
普通ならあり得ない事だが、老人はプロシュートをとても気に入り、直直に教育を叩き込んでいたし、プロシュートも寡黙だが力のあるこの老人を尊敬し、互いに非常に親しい関係だった。




「それでもお前の実の親だ」

老人の穏和な表情が変わる。

「血を分けた………このイタリアの地では……なにより血脈を尊いものとする……………。
今は落ちぶれたとはいえ……ヤツも、お前の父は、偉大な名家の出身だった。

お前にも、その気高い血は流れている事を忘れてはならない…。

行け、これは命令だ」

老人とは思えない鋭く光る灰色の眼光。
老いた獣の威圧感。
長い間、血の誓いと闘いと屍の城の限りなく近い位置に、あり続けた者のみに出せる威圧感。

これは逆らったら罰をと意味していた。





「…クソッ。分かったよ。

だがな、血脈が尊ばれても、オレにとっての親は、オレを眼にかけてくれた、ジジイ、アンタだけだ。
それは忘れんなよ」

そう言って部屋を出ようと背を向けるプロシュートに、老人は声をかける。


「…だから私は、そんなお前に本当の家族の大切さを知ってほしい…。

プロシュート。
失う直前にこそ、それがハッキリ分かるものなのだ」


その声色は穏やかなもので、彼を思う故だと分かったが、気にくわないので舌打ちをして、彼はその場を後にした。










「…………さっぱり分からねぇな。
あんな、奴らになぁ……あり得ねぇよ」



カツカツと強く靴の踵を響かせ、彼は己の愛車の元へ向かう。


あり得る筈がない。

車を彼の生まれ育った街へ走らせ、そこに近付けば近付く程、両親…と呼ぶにも忌々しい彼等を嫌でも思い出し、自然と苛立ちが募る。



ギャングの名家、ゴッドファーザーさえ出した家から産まれた筈の彼の父。
だが彼は末の子にして、人間性としても出来損ないだった。

ギャングに必要な凶暴で攻撃的な『男性的な性格』を持っていなかった。

誠実でもなく、男らしくもなかった。

弱者を前にすると平気で踏みにじった。

すぐ羨み、妬んだ。

他人の足を引っ張って、他人の不幸を何よりも楽しみにしていた。

卑屈にして、何も能力がなく、一族からも疎まれ、己のプライドも邪魔してマトモな職にもつけない。

少しずつ亡くなった祖父の遺産を食い潰し、食より酒に溺れる。

そんな己の過ちさえも、己の不幸は、全て他人のせいだと彼の父は呪う。

それに比べて優れた能力を持つ息子のプロシュートには、常に卑屈な笑みを浮かべた。
嫉妬の混ざったそれを見るのがプロシュートは大嫌いだった。

そんな父と共にいる母も同じような人種だった。
彼を自慢の息子だと言っていたが、それは口ばかりだった。

そんな二人を反面教師にしたプロシュートは、彼等に全く家族として期待をしなかった。
己の面倒は自分でみていた。


この二人の元にいては駄目になる。

そう思い、彼はまだ幼いうちから遠い親戚の伝を使って、あの幹部と知り合い、家を出た。

ギャングの組織に入るには通常簡単に入れるのではない。

効率的に兵隊が見つかるポルポの入団試験以外に、パッショーネ内の力のある非スタンド使いの幹部は、他の組織と同じギャングの入会法を行っていた。


組織の年配の者が、血縁や知り合いの中から見込みのありそうな若者を観察し、中でも勇気があり、賢く、公平無私、高圧的な子供をギャングとして、殺人や武器の使い方を教え、何年もかけて教育する…それを。


プロシュートは、そうして死に対して感情を出さないようになり、その頃には、すでに一級の殺人者となっていた。


組織の為に生きる、その為の犠牲は何でもするのを当たり前だと思っていた。

たとえ自分が死ねと命令されても喜んで応えただろうし、自分の知り合いの幼い子供を硫酸につけて殺せと言われても躊躇わず行っただろう。














…実の妹がいた事を知るまでは。

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あきゅろす。
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