2 クリティカル・アクレーム 殲滅、破壊、悪夢
粛正。
凄惨。
恐怖。
全滅。
それが任務に付け加えられていた。
戦闘開始の刹那、メタリカの射程距離内にいた男達の重火器が一斉に地面へ叩きつけられた。
空になった手に呆気にとられ、彼等は一体何が起こったか分からない。
我に返った数人が咄嗟に手を伸ばすも、それは既に遅い。
ぐらりと倒れていく。
一直線に飛んできた複数のナイフによって、眉間を正確に貫ぬかれたからだ。
落とされた武器は、滑るように不愉快な音をたてながら、リゾットの足元に急速に集まる。
その中の2丁のマシンガンを拾い、躊躇いもなく引き金をひく。
顔が分からないほどに肉片と化し吹き飛ぶ人間だった者達。
疾走った。
迅速に。
音も無く。
無慈悲に。
彼が走り去った後に残るは、絶命する者か口から刃物を噴き出して叫び悶絶する者ばかり。
銃口を向け弾丸を発射させようとしても、彼が掌を向けただけで、銃身が凄まじい力で弾かれ、味方の頭を撃ち抜いてしまう。
恐怖と混乱の中心人物は、地面を強く蹴り、手にしたナイフを一閃させる。
頸動脈から血の噴水を迸らせ、首を押さえながら声なき悲鳴をあげる男達。
逃げ出そうと背を向けた者は、足の甲から噴き出した大量の針によって足を縫い付けられた後、首を切られ死んでいく。
倒れる死体を背にし身体を捻る。
ナイフによる攻撃を自身のナイフの刃で受け、顎の下から頭頂を一気に貫く。
振り返り、後ろの男の膝に新たに造り出したナイフを突き立てる。
腹部を殴り付け、男の手首からナイフを叩き落としそれを奪うと、右目を深々と突き刺して、地面にその体を叩き落とす。
リゾットの背後から突如現れた無数のメス。
それが雨霰となって降り注ぐ。
両膝、両足、足の甲の順に地面に縫い付ける。
彼らを死の底へ撃ち付ける。
眉間、首、目玉、心臓の急所という急所を狙ったそれは、命を確実に奪う。
串刺し状態の死体が積み上がる。
…容易いものだ。
こうも簡単に死んでいく。
銃身が一斉にリゾットに向けられ、数多のそれは強固な黒い城塞の様に見えた。
だが彼には、何の意味もなく驚異でもない。
そんなものはどうでもいい。
夜を呼ぶ風が吹く。
静かに敵に向かって前進する。
冷えていく精神。
沸き上がる自身への怒り。
血液内で蠢く声。
磁力の歪み。
右手をゆっくり上げ、首を掴む動きで指を広げる。
「……死ね」
絶叫。
断末魔。
爆発的な血潮。
噴き出す刃物。
おぞましい黄色の血が地を濡らす。
全ての死体の首からナイフや針の金属がオブジェのように飛び出し、全てが残酷に爛々と光っていた。
「……………」
始末がついたと分かった途端、リゾットは片膝を折り、手を地面についてしまう。
息切れが止まらない。
目眩が起きて、心臓を殴られたかのような感覚もする。
意識を失わないのが奇跡に近い。
怒りに我を任せスタンドパワーを使ったのもあった。
だが、何よりこの戦闘の前にリゾットは今日だけで既に二つの任務を終わらせていた。
自分自身に無理をし過ぎていたのだ。
人材不足のチームに関わらず減る事のない任務の数に、同チームのメンバーになるべく任務を就かせない為に。
ろくに眠らず。
食事も殆ど取らず。
馬鹿な事だとは分かっていた。
だが、悪夢に開放されたかったのかもしれない。
強力なスタンド能力と忍耐強さに、優れた判断力と慎重さで、この暗殺チームに籍を置きながらも二年間生き延びてきた。
とはいえ、既に限界が近かったのだ。
従姉妹の亡骸。
地面に投げ出された小さな手。
小さな人形が側に転がっていた。
名を呼んでも返事をしない小さな少女。
致死量の血が身体を濡らす。
体温を失っていく体。
抱き抱えて泣き叫ぶ十四歳の自分。
『お前のせいだ』
その小さな唇が呟く。
『お前のせいだ』
背後からも声が聞こえる。
ふり返れば、自分が復讐したあの男。今まで命を奪った全ての者達の虚ろな表情。
足元は底の見えない闇。
大勢の色のない目が見つめる。
腹部から数えきれない刃物が噴き出す。
無数の死者の手が憎悪を込めて己を貫き、脈打つ心臓を奪い取り握り潰す。
弾丸が顔面を、背中を撃ち抜き、膝を折り倒れていく。
けたたましく響く大勢の笑い声。
そして底のない闇へ…。
同じ悪夢が毎夜続く。見ない日は一日として無かった。
背後から乾いた何かが落ちる音がした。
我に返って立ち上がり、振り返る。
そこに、一人の少女が立っていた。
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