1 トゥ・リヴ・トゥ・ダイ あの人は独りで、と言っていた。 何も映さない、映すのをやめた目を見た時、私はひたすら悲しくて泣いてしまったのを覚えてる。 あの人は俺の為に泣くなと言い、困ったように頭を撫でてくれた。 でも悲しかった。 それを言うまで、貴方は一体どうやって生きてきたの? …独りで、なんて、そんな事言わないで。 最後の敵が崩れ落ち、生きている者はかの男ー暗殺者リゾット・ネエロのみになった。 喉を切り裂かれたもの、心臓に穴の空いたもの、肉片のみのもの。 貼り付いた顔は驚愕、憎悪、恐怖、苦悶。 積み重なる死体。 目撃者はいない。否、誰も生きていなかった。 「終わったか…」 赤に漆黒。 空を染める深い紫。 黄昏の中を一人、リゾットは佇む。 その瞳は闇よりも深い。 彼は足元に転がる数体の死体を静かに見つめ、それらに右手を差し出す。 死体から引き付けられるように何かが飛び出し、軽い音と共に受け止める。 拳を開けば、それはパッショーネの構成員バッジ。 血がへばりついたそれらは、赤く鈍く光っていた。 (…メタリカ) 心の内で己のスタンドの名を呼ぶ。 容易くそれらは分解され、たちまち手の上から塵となり消え去った。 パッショーネ内で最も蔑まれる部署暗殺チーム。 送り込まれれば、常人には近い死を約束される場所。 つい先程までそこの同僚だった数体の死体。 組織内でどうしようもなく厄介扱いされた者、上司に疎まれた者が配属される事もある。 彼等は事実上の死の宣告に、自棄になる。 いつもそうだ。 リゾットの忠告を無視した結果の成れの果ての姿。 享楽的に現実から逃げた。 判断を誤ったから死んだ。 自殺に近かった。 理由は様々だ。 仕方のない事だ。 だが、仮にも仲間だった者達の死を眼にする度に何かが疼く。 抉られる。 心の奥で何かが失われていく。 (間に合わなかった。 すまない……) 目を閉じ、せめて彼らが安らかに眠れるよう祈る。 まだ年若い少年がいた。 家族を持つ父親がいた。 いずれ自分もこうなると、リゾットは分かっていた。 決してベッドの上で家族に囲まれて死ねる事などないと。 生きる為に、死んでいく。 死んでいく為に生きている。 その為に、殺し続けてきた。 殺めた人間について、死んだ人間について、考える事も思い出す事も止めようと努力している。 すでに己はもう二度と、安らかに眠る事は出来ないのだ。 自分は地獄へ行く。 未来永劫苦しみ続ける。 18歳の時、従姉妹の命を奪った運転手を手にかけたあの日から。 あの時に死ねばよかったかもしれない。 だが死ねなかった。ただ死なずに今こうして浅ましくも生き続け、他人の命を奪っている。 日常、同じ構成員同士にもチームの同僚にさえ、死の権化、死肉を喰う獣と呼ばれ、怯えや恐怖、蔑みの視線のみに晒されて。 屍で築かれた山に立つ己は、初めて殺したあの男より罪は重く、魂も淀み汚れきっているだろう。 背後から大勢の足音と重火器のぶつかり合う音が聞こえる。 どうやら仲間がまだいたらしい。 向けられる怒号と殺気に、自然と眼光が鋭くなる。 ただ目の前の敵を倒すのみ意思を持て。 「騒ぐな……。 お前等などどうでもいい」 仕方のない事だ。 …だが、生きる今もなんら地獄と変わりはない。 [次へ#] |