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小説
憎い/愛しい/憎い/
「どうしてかしら」
閉館前の、どこか物静かな喧騒と慌しさのある図書館で、優樹はぽつりと呟いた。
辺りはすっかり暗く、試験前でいつもより人が多かった図書館はすでに空席が目立ち、優樹が座る席には優樹と、もう一人、やる気のなさそうに本を捲る男しかいない。
見える背表紙は、シェークスピアだ。
まるで似合わない。
自前なのか、パーマなのか知らないが、緩くうねった黒髪に、モダンな眼鏡から見える瞳はやはり軽薄でけだるげで、この男が見る本ならばもっと活字より絵が多く、また、薄っぺらな挿絵の女より、服を着ているのか着ていないのか分からない、妖艶な笑みを浮かべ肉感的な身体をさらしている雑誌のがお似合いだ。
「…どうしてかしらって?」
榊は、本から視線を上げずに問うた。それでいい。優樹も、視線を合わせる気もない。ただ、窓から見える夕日を見つめる。
「私、貴方のことよくわからないの。貴方の性格とか、そんなんじゃないわ。私のなかで、貴方に対する、私の感情がよくわからないの」
榊のことを、好きか嫌いかと問われれば、不愉快に感じる部分のほうが多かった。
ならば、嫌いなのかと問われれば一概にも言えず、優樹をなんとも奇妙な心情にさせる。
そんな、男だった。
「俺は好きだよ、君のことが」
とてもね、と、榊はこれまた視線を上げずに言った。それは、本当に軽い調子だった。
これには、優樹は視線を榊に向け、蔑むように睥睨した。
「そんなことばっかり言うから、せっかく出来る彼女に次々振られるのよ」
「彼女じゃないよ」
なら、なんなのだと言うのだ。
人気のない場所で、抱き合いキスをするのは、付き合っているからではないのか。
そんな、優樹の心の内を察してか、榊がまるでなんともないように言う。
「ほんのキスしてたのをみただけで付き合ってるって?優樹君って、案外初心って言うか、可愛いね」
かっと、頬に血が上る。照れや、恥ずかしさではない。怒りでだ。
「そういうところが、不愉快だわ。軽薄で厚顔無恥で」
「でも、俺のことをよく見てる。嫌いな人間なら、無視すればいいのに、君とはよく視線が合うけれど?」
男の言うことはあたっていた。
授業中に、放課後に、いつだって、気づけば優樹は榊を視線で追っていた。
「俺のこと嫌いかい?」
楽しそうに、まるで歌うように問う声に、視線が、声が、震えそうになる。
「俺は君が好きだよ」
他の女に口付けした唇でそれを言うのか。頭が、下腹部が、熱を持ち、ぐるぐると火掻き棒でかき回されているようだ。
「君は俺のこと嫌いだ見たいに言うけど、それは半分当たってるけど半分当ってない」
いや、と、榊はレンズの奥の瞳を楽しげに細める。
「それよりも、とても厄介なものだ」




「いやはや、恋より厄介なものだよ」

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あきゅろす。
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