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ウェーリタース
《プロローグ》イニティウム
僕が彼女とあったのはいつだっただろう?6歳ぐらいのときだったかな?
あの頃の彼女は…今とあんまり変わらない気がする。
確か、あれは本家のほうだったかな?母に頼まれて、庭に花を摘みにいったんだ。なんで摘みに行かされたかは幼い記憶のことで覚えていない。
そこには、妖精さんがいた。この国では妖精という存在がいるということは至極当然に認識されているものなので、妖精を絶対に見ることはないとは言い切れない。
その妖精さんは椅子に座って本を読んでいた。
髪は軽くブルーのかかった銀色で、緩く密編みにして前に流していた。服は…そうだな、グリーンとピンクを基調としたドレスを着ていたんだ。
その姿に僕は無意識に見入っていた。
「どうした?」
妖精さんが本を読むのをやめ、優しく話しかけてきた。その声を凄く綺麗だと思うのと同時に、動くものではないと思っていたので、激しく狼狽えた。いや、妖精だったとしても、動かないということはないのだろうけれど…。
「慌てなくていいよ」
「ぅえ、あっ…。えっと、うん

。」
妖精さんから優しい笑みが向けられた。僕もつられて笑う。顔が熱い、、、風邪でも引いたのかな?
「キミ、名前は?」
「え、ぼっ、僕?」
自分の顔を指差し答える。まぁ、周りには誰もいなかったので、僕以外ということはないのだろうけれど…。
「そう。キミ」
僕は少し照れながら言う。
「僕…。僕はね、イオ。イオっていうんだ。」
「そうか、イオくんか。なんか、可愛い名前だね。」
妖精さんは緩く握った手の指先を口元に当てた。そして、ふふっと笑う。僕にとって可愛いと言われることは、名前に関しても容姿に関してもあまり好きなものではなかったのだけれど、なぜかこの時はこの名前に感謝したんだよな…。
「えへへ。妖精さんはなんていう名前なの?」
首の後ろに手をやりながら聞いてみる。多分、顔は真っ赤っかだっただろう。
「う〜ん…。まず、どうしようかな…。あっ、名前は、ティアだよ」
妖精さんは困ったように答える。
「ティア…」
心の中で何度も繰り返し言ってみる。澄んでいて、とても妖精さんに合う名前だなと思った。
「うん、ティア。それと、もう1つ。私、妖精じゃないよ?」
…?「え?」
僕の聞き間違いだろうか?妖精さんじゃないと聞こえたんだけど…。
「だから、妖精じゃないって言ったんだけど…」
「え、え、えぇ!?違うの!?」
僕は驚きに目を見張った。
「違う違う。…ほら」
彼女の手が僕の頬にふれる。そっと手を重ねてみる。柔らかくて、暖かった。本物の妖精なら、温度を感じるなんておろか、触ることすら出来ないだろう。
「…ホントだ」
「ね?でしょ?私とキミか、触れ合えることが証拠」
「うん。僕、ティアの手を触ってる」
そうして、お互いに笑い合った。



これが、彼女―――ティアと、僕―――イオとの出会いだった。



月日は流れ、今、僕は息絶えようとしている。隣には、初めて会った時より、少し大人になった彼女。それに対して、僕は…。
彼女はなぜか泣いている。なんで泣くの?笑ってよ。僕は、君が笑っている顔が1番好きなんだよ?
ねぇ、お願い。笑って。
「ティア…。笑ってよ…」
「え…」
顔をふせ、泣いていたはずの彼女が僕の顔をじっと見て、驚きに目を見張っている。
「僕…ね、ティアが…、大好き…だよ…」
彼女がもうほとんど動かなくなってしまった僕の手をぎゅっと握る。
「うん…。うん…。うん…。私も、イオが大好きだよ」
そう言って、彼女は泣きながら、凄く優しく笑いかけてくれた。その笑みはとてもぎこちなかったけど、彼女の笑っている顔が見れて、良かった。
―――ティア、君が僕を覚えていてくれる限り、僕はずっと、君の中で生き続けるんだよ。
声に出したつもりだったんだけど、聞こえたかな?もう、口があんまり動かなくなっていた。
そして僕は、微笑みながら、息をするのをやめたんだ。


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