虹色スコア 5話:気付 愛菜の歌がランキングで1位になってから3日ほどたった。私は相変わらずいつもの道を通り森林公園へと通っていた。今日はあの人、くるかな… 優羽が歌い始めてから10分ほどがたった。あの人の歌声は聞こえない。今日は来ないのかな…と思いながら、今度は愛菜の曲を歌う。ランキングで1位になった曲だ。 …すると、響くような歌声が聞こえた。いつも通り中性的で、男性なのか女性なのかすらわからないけど、すごくキレイな歌声。すごいな…。 1番を歌い終え、2番に入ったとき、ふと引っかかるものがあった。 なんでこの人はこの曲を知っているの? 確かにランキングで1位になったけど、それでもこの曲の認知度というのはネットの世界でさえもまだまだ低い方だろう。それに投稿してからまだ10日もたっていないはずだ。なのにこの人はこの曲を完璧に覚えている。だって、歌詞を1度も間違えていないし、音程だってずれていないから。 優羽が出した結論はこうだ。 きっとこの人は良く動画投稿サイトをみるんだ。そこで愛菜の曲を見つけ、すごく気に入ったんだろう。 しかし、結論を出してもその引っかかりというのはなくならない。 そこで2番を歌い終わる。愛菜の曲ではこのあと間奏があり、Cメロ、サビと続く。間奏はどうしようか… 私はそこでほんの少しの間、歌うのを止めてしまった。しかし、あの人は歌うのを止めなかった。間奏を高らかと歌い上げていく。私もその歌につられて愛菜が間奏時に歌っていたメロディーに適当な言葉をのせ歌う。 ん…?あれ… サビに入ろうとしたとき、さっきの引っかかりの正体に気付いた。 え、いや、でも… でも、この間奏のとこの声のメロディー… いや、そういえば同じ気がする…? え?でも、なんで? なんで? 私は歌うのを止めていた。そして、思わず聞いてしまう 「…あの、尽人さん…、ですよね?」 「……」 返事はない 「その歌声と、コーラスの入れ方。尽人さんと同じです。あなたは、尽人さんなんですよね…?」 返事はなかった。しかし、不自然に葉が揺れる音がした。音がした方向を必死に探す。しかし場所はわからない。さらに辺りを見回す。 スタッと、着地するような音がした。その音である程度の場所が特定できた私は急いでその方向に目をやった。 すると、人影がこの場所から走って遠ざかっているのが見えた。 「まっ、待って!待って下さい!!」 一瞬走る速度を落としたようにも見えたが、止まらずに走って行ってしまった。 「……」 そのまま頭を抱えてうずくまる。 「〜〜〜」 後悔した。もうこれからあの人はこの場所に来てくれないかもしれない。そう思うと、あんな呼びかけしないほうが良かったのかなと思う。 でも、もう聞いてしまった。どうしてもあの人の正体が知りたかった 「……。帰ろうかな」 力のない動作で立ち上がる。ずっとここにいても、少なくとも今日は絶対にあの人は来ないだろう。 優羽は十人に聞けば八人は気分が悪そうに見えると答えるであろう顔をして、トボトボと家への道を歩いた。 先日愛菜に声の正体がわかったら教えると言っていたが、到底言えそうにもない [*読み返す] [戻る] |