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虹色スコア
2話:新曲
そのような出来事があってから何度か森林公園に行ったが、歌声が聞こえたのは数回だけだった。何度も呼びかけて質問などもしてみたが、歌ってくれるだけで返事は返ってこなかった。
ーあの声の人のことをもっと知りたい…ー
私は自然とそう思うようになった。だが、いつも聞こえてくる声は中性的で、男か女なのかすら特定できない。本当にあの人は誰なんだろう?
そして私は四階空き教室へと向かう。
するとそこには思わぬ先客がいた。
「あ、優羽!! やっと来たかぁ〜?」
「やっと来たかぁ〜? って、なんで愛菜がここにいるの?」
この無駄にノー天気で明るいのは親友の姫藤愛菜だ。
「え、なんでって、新曲出来たから優羽に歌ってもらおうと思ってさ〜」
「新曲?またテンポ速すぎる曲とかじゃないよね…?」
「ん、大丈夫、大丈夫。今回のは爽やかPOP系だから〜。だからね、お願いっ!歌って?」
顔の前で手を合わせてそんなことを言われる。しかし、ちゃっかりとアコギを構えている姿をみると、断っても意味がないだろう。愛菜は昔から自分が決めたことは意地でも変えないからなぁ…。仕方ないか。
「はいはい、降参です。歌いますよ。で、楽譜は?」
「ホイホイ、コレだよ〜。じゃあ一回歌ってみせるから覚えてね〜?」
「え、ちょっと一回って…!?」
私の言葉を無視して愛菜はギターを弾き始める。言っている事はムチャクチャだが、前奏ですでに引かれるものがあり、すんなりと頭に入ってくる。そして愛菜は歌い出す。愛菜の作る曲はこれで三曲目だが、よくこんなにも人の心を掴む曲を作れるものだなと思う。いつも愛菜が歌っているのを見ているが、ギターを弾きながら一切音程をずらすことがなく綺麗に歌う姿は本当に尊敬する。
聴き入っているといつの間にか曲は終わっていた。私は無意識に拍手をする。
「愛菜また歌とギターの腕上がってない!? もう追いつかないなぁ…」
「ギターは優羽やってないじゃないかぁ〜。歌はウチよりも遥かに優羽の方が上手いよ〜!…で、今回の曲、どう?」
愛菜はそう言ってくれるが、それは愛菜の過信でしかない。誰から聴いても愛菜の方が上手いと思うだろう。本当に愛菜はすごいなぁ…。
「いや、もう最高だったよ。すごくすんなり頭に入ってくる。」
素直な感想を言う。

「お!本当!?良かった、良かった♪覚えられた?」
「一回で覚えられる訳ないでしょ?いくら愛菜の曲が印象に残るといってもさ〜…」
「お、印象に残る!?嬉しいこと言ってくれるねぇ〜。でもやっぱり一回はムリ?」
「無理無理。私は愛菜と違ってそっちの才能ないですから」
「え〜、そう?シュピーン、ジュバーン、ピキッ、って入ってこない?」
愛菜はその擬音を身振り手振りで表現した。ギター邪魔そうだなぁ。
「こないこない」
顔の前で軽く手を振る。そんなアクションされても入ってこないものは入ってこない。
愛菜は数回曲を聴いてしまえば全て覚えることが出来るのだ。主旋律だけなら一回で覚えてしまうらしい。しかし、主旋律だけでなく、ベースやピアノ、聞こえる音なら数回か聴いてしまえば覚えてしまう。それが愛菜の才能だった。
「で、愛菜。」
「ん、ナニナニ〜?」
「ここの歌詞なんだけどさ、…」
私は楽譜の一部分を指して言う。
「フムフム、なるほど。なんか違和感あったんだよねぇ〜。その歌詞なら全然違和感ない。それどころかしっくりくる!さすが優羽、サイコー!!」
「え、あっ、ちょっ…!?」
いきなり愛菜が抱き付いてきた。予想外のことに私は軽くバランスを崩した。愛菜と共に床にぶつかる。
「え、うわっ!?優羽〜!?大丈夫!?」
「うぅ…なんとか。愛菜〜…?」
私は軽く愛菜睨む。しかし目だけで顔全体は笑っていた。
「きゃー!ごめんごめん〜!!そんな睨まないでぇ!!」
愛菜は顔の前で手を合わせて目をつぶっている。しかしやっぱり笑っていた。
一瞬二人は顔を見合わせ、一緒に吹き出すように笑った。


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あきゅろす。
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