短編小説
急に襲ってくる犬2
そんなことがあったわけだが俺はそれ以来徹底して相沢を避けまくっている。
本当に、避けまくっている。
とりつく島もないほどに避けまくっているのだ。
なのに、いきなり先生が爆弾を落としてきた。
「おい、森山」
「……?」
「お前放課後暇か?てか暇だろ。部活も塾もしてないからな」
「………」
去年から続けて担任で、俺の家庭事情に詳しいこのちょっぴり(嫌味)強引な町田先生はたまにこうやって俺を夕ご飯に誘ったり雑用を押し付けたりしてくる。
前者の分には食費も浮くし、好きな物食べさせてくれるし俺としてもまぁ満更でもないが、定期考査の近いこの時期だ。先生もテスト問題の製作に追われて忙しそうだしその可能性は薄いだろう。
じゃあ雑用じゃん。
「お前あからさま過ぎ。もうちっとその不機嫌そうなの隠せよ」
ムッとしたのが顔に出たようで、先生も呆れたようにため息を吐く。
「…………なにすれば?」
どうせ断れもしないのだろうから、さっさと取り掛かってさっさと帰ってやろうと内容をせかす。
「物わかり良くなってきたか?」
反抗もしないのを満足気にニヤニヤと見下ろす先生に嫌味の一つでも言ってやろうかと思うが面倒なので飲み込む。
「柏木の生徒会に届ける書類のなかの一枚を新任の田端の野郎が間違えて持っててさ、今日の5時必着だから直で渡しにいかにゃならんらしい。」
柏木とはこの学校の姉妹校らしい青柏木高校のことだ。あそこは確か全寮制男子校のお坊っちゃま校で、学校を運営する仕事の殆どを生徒会に任せるという恐ろしいほど生徒主体をモットーとする少しおかしな学園だ。
「今日は職員会議あるから代わりに生徒に持って行かすって向こうの会長の了解得てるからちょっと行って来い」
まぁここまでなら面倒臭いなぁと心の中で愚痴て散歩がてらいってやらんこともなかったのに、
「相沢と」
これな。
これがいかんかった。
「勘弁してください」
相沢の名前を出した瞬間に俺が即答するから町田先生は少し驚いたように俺を見る。多少の文句が出るのは覚悟の上だったが、このようにあっさりと拒絶するのは見当違いだったのだろう。
「付き添いなら、吉田でいい」
俺の数少ないお友達だ。
「あ?え、何、お前相沢と仲悪いの?」
尚驚きを露わにする町田先生から目を逸らす。
「仲悪いんです。」
「え、あんな素直な奴とどうやったら仲悪くなれんだ?」
心底不思議、といったように訝し気な様子の町田先生。
「……向こうが、嫌なことしてきたんです」
気まずくてオブラートに包みながらも下を向く俺。
ちょっと嫌なこともするが町田先生には良くしてもらってるから我儘とか、迷惑かけるようなこととかしたくないのだ。だから俺が一方的に相沢のことが気に入らなくて駄々をこねてると勘違いされるのが嫌だった。
「………ふーん。へー…。あそう?」
そんな俺の思いを汲み取ってくれてるのか否かは分からないが、町田先生は少しした後に「でも、」と続けた。
「でも、あいつはそんな感じ受けなかったけどなぁ」
そりゃそうだろう。
だってあいつが言う分には、俺に惚れてるらしいのだから。
「寧ろ嬉しそうだったぞ?あのしっかりとした表情崩さないあいつがよ?森山も一緒に行かせるからっていったら「森山と…?」って俺には目がキラッキラして見えたな。まぁその後なんか考え込んでたみたいだったが。」
だから俺はてっきり仲良しなのかと。と町田先生は言う。
俺は依然顔が上げられずに吉田と行くと繰り返す。
「いや、やっぱお前ら2人だ。二人でいって来いよ。ちょっと誤解とか解けるかもしんねーし、ダメだったらダメでいいから」
そう言ってやっぱり強引な町田先生は俺の頭をくしゃくしゃっと撫でて去って行った。
で、だ。
いってきましたとも。
お坊ちゃん校なだけあって無駄に豪華な校舎を通って“町田”会長に会って、町田先生の甥だっていうびっくりニュースを聞き、帰る。
行は俺が相沢を無視しまくっていたが、ごめん…と謝り出してそれでも好きだなんて想いを語られて赤面してそれを辞めさせ、町田先生の思惑通り普通に話せるようになるまでになった。
あのシュンとする犬のような相沢を怒り続けるのは、罪悪感に苛まれてしまってどうにもできない。
それで普通に帰っていたのだが、なんか校舎が広すぎて、なんてゆーか、迷った。
「相沢」
「ん?」
「どうやったらここから出れんの?」
「………」
「………」
くっそ。こんなんだったら「こっち行ったら近道ですよ!」とかゆう野球部のスポーツマンの言うことなんか聞くんじゃなかった。
取り敢えず歩いてると、
「んっ……せんせ、あぁっ」
なんていう悩ましげな嬌声が耳をついた。
「………」
「………」
俺たちは顔を見合わせて無言で声の出どころを辿る。
少し向こうに校舎が見えて、興味本位で近づいた。
ここが男子校だなんて頭に無かった。
「いやぁ、もっと奥ぅ……焦らさないでっ」
窓から中を伺うと俺は固まった。
相沢も忠犬のように俺についてきていて、中を覗きみた。
どうやらそこは保健室らしく椅子に座った20代半ばくらいの白衣を着た男の上に、華奢だがついてるものはついてる所謂美少年が跨り、アンアンやってた。
この位置からは絶妙な角度で美少年の切なげな顔も、接合部も、雄々しい猛りも全て見ることが出来た。
それはどこか非現実的で、でもいつか兄貴に見せられたAVよりかは現実的で、その非常に性的で官能的な光景から目がそらせなかった。
突然薄く目を開いた少年と俺は目が合い、トロンとした瞳でニヤッと笑われた時に頭が沸騰しそうになってやっと正気に戻った。
はっとしたのも束の間、ついに二人は果てたようで、その絶頂に喘ぐ少年の姿が俺の瞳にこびりついた。
ばっと俺はしゃがみこんで自らの体を抱きしめた。
驚きの光景に気が動転し、ガタガタと小刻みに震えている。
どうしよう。俺……
「…大丈夫か?」
その声ではっとして見上げるといつも変わることのないキリッとした顔があり、俺と同じ目線にしゃがみこむ相沢を目で追った。
「どうした?具合でも悪くなったか?
」
その飄々とした姿が信じられずに目を見開く。
「ど、ど…したって、お…お前」
「ん?」
なんだ?と安心させるように近づいてくる。
「くんなッ!」
そう制するとピタッと止まる相沢。
前科があるからそうせざるを得ないのか。
「お、お前はへいきなのかよ?」
「……?」
そこまで言ってもわからない、という表情で首を傾ける相沢は未だ俺を心配しているようだ。
「どうした?」
ここまで言っても伝わらないのなら、このバカ犬にはオブラートに包んで言ったって伝わらないのだろう。
俺はもういい、とばかりに首を振った。
「お前、先帰ってろ」
「………」
今の状況が暴露たくなくて、後のこととか考えて、俺は咄嗟にそう言った。
だが何も言わない、何も動く様子のない空気を読み取って、流石に言い過ぎたか?と思って相沢の方を向いた。
なんだか恥ずかしくて顔が熱いしどうしようもなくて少し視界が水分で歪んだ。
そんな様子をじっと見ていた相沢が突然俺の腕を掴んでばっと広げさせるようにして体を押し倒してきた。
「っ!?…なっ、ちょ」
暴かれた俺の体は火照っていて、下半身が特に熱い。
不自然に盛り上がったそこを見て相沢は確信したいようにガン見してきた。
俺は恥ずかしくて、恥ずかしくて、涙が出てきた。
「やめろ!相沢っ、恥ずかし…っ」
懇願するように見上げると相沢は驚いたように目を見開いていた。
そして………
あろうことか、情事を見ても何の反応も示さなかった屈強な精神力を持つ筈の相沢の相沢が、なぜか…勃起していた。
「あい……ざ、わ?」
押さえつける力が強まって、手を一つにまとめ上げられたと思ったらカチャカチャと俺のズボンのベルトを外す音が聞こえてきた。
「相沢っ!?え、なにして…相沢!
やめろよっ」
目が合うと何故か熱っぽさを感じるのは気のせいであってほしい。
「……でも…、森山…辛そうだし」
「いらない!いらないからぁ」
そういうのに俺の息子はもう相沢に握りこまれていた。
「っ!やめッ……ぅっ…ぁあ」
相沢はずっと俺の顔をガン見しながらソレを扱くからもう本当に恥ずかしくて顔を反らす。
力も入らないしどうせ相沢には勝てない。そんな考えが頭を占領し、とにかく早く終わって欲しいと快感を追いかけることにする。
「ッ……んっ………」
恥ずかしい声を抑え込み、唇を噛む。
するとそれをどう勘違いしたのか、いや、感じれていないと判断したのだろう、相沢が積極的に愛撫を始めた。
「……舐めたら…いいのか?」
バカ犬はまた馬鹿なことを言い出した。
「っばか!ばかだろ舐めるなよ?絶対駄目」
すると相沢はシュンとしたあの目をする。
だからそれ卑怯だろ。
「この前雄二と見たAVでは舐められて気持ちいいって言ってた」
雄二とは相沢の友人の田中だろう。
純粋な相沢に何見せてんだ、あいつ!
「…駄目、か?」
またあの目をする。
「っ……駄目」
それでもそこは引けないと首を振って拒否する。
「………」
「………」
手は動かされながら無言で数秒見つめあった後に、最後のひと押しとばかりに相沢が「…舐めたい」と言った。
「やだっ、お願、相沢ぁ………やだぁっ」
反らしていた顔を戻して嫌だと懇願するとなにを思ったのかごめんっ…と言った相沢が俺のを躊躇いもなく口に含んだ。
「ぁああっ!うそ、うそ!やだ相沢やだあ!」
ショックで叫んだが相沢には届いていないようで、弱いそこを舐めたり吸ったりされると、高まっていたそこは爆発寸前だった。
「相沢!離せ!お願いっ……出る、からぁっ」
変な声が出ないよう力を入れて、極力押し殺した声で懇願するとなぜか勢いが増した。
なんだ?こいつSだったのかよ?
「っう……っんんん」
俺は相沢の口て放ってしまった罪悪感と恥辱と倦怠感とで呆然とした。
「…っぁはぁ、はぁはぁ」
「………」
暫く無言で、気力を少し取り戻した俺はそのままの体制で視線だけでキッと相沢を睨んだ。
「………」
相沢は悪いことをして暴露た子供のようで、シュンとしている。
「……お前、…………っあぁ!もう、いい。」
本当は怒ろうと思ってた。
けど、相沢は俺に好きだと言った。
そしてこの事の発端は俺が興味本位で他人の情事を覗き込み、勝手に勃たせてしまったところにあるのだろう。
好きな人の前でエロビデオを鑑賞させるような事をして、それでその相手が欲求を露わにしてたらそりゃネギ鴨というか、据え膳というか、俺だったら襲う。だから、俺にも落ち度があるのだろう。
不安げに見つめてくる瞳から目を逸らし、帰るぞ。と一言告げて身なりを整えて歩き出した。
相沢の相沢が未だに萎えてないのを見ないふりして。
それくらいの仕返しはいいだろう。
次の日もっと気まずくなったのは言うまでもない。
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