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短編小説
変態と変態
彼の名前は結城義也(ユウキヨシヤ)
小中高エスカレーター式のこの学園では珍しい外部入学生であり、また風紀委員の一年生でありながら次期副委員長は彼であるとの噂があるほど優秀で武術に長けた生徒である。加えて163センチと少々小柄な身の丈でありながらも、その戦闘能力と纏う殺気の強いオーラ、容赦ない“制裁”の数々から、どうしようもないドSであるというのが彼に関する有力な情報である。今日は学園で大きなトラブルが発生しており結城も事態の収拾に駆り出されている。今現在大柄の男子生徒6名を相手に結城による“制裁”が加えられている最中である。
「ヴぐッ………がはっ!」
「ふ、ふざけんなっ・・・こ、こんなの・・・一方的な暴りょあ”あ”あ”ぁあああ」
怯えきった表情の男とすでに失神した男。まさにそこは地獄絵図であった。
「うるさいな。人間のクズが何喚いてんだ?てか、もっと頑張ってよ。ほら」
男たちはもう降参だと叫んでいるのに結城は納得しない。
どころか、失神しない程度に手加減を加えながら男を踏みつける。
「やだっも、もういやだ・・・!」
ガタガタと震え、奥歯は噛み合わず、もうやめてくれと冀う姿は何とも哀れである。
「こうだ、こうやって、蹴るんだよっ」

ガッ ドゴッ  ゴッ

男たちにはもう、勇気が狂人にしか見えなかった。
完全に目は据わっており、興奮のためかほのかに朱く上気した頬と、動くたびに揺れる短髪に切り揃えられた清潔感のある髪の隙間から覗く赤色のピアスとのコントラストは、もともと整った顔をしている結城の色気を存分に引き立て、どこか怪しい雰囲気を醸し出していた。
こんなことをし続けたからか結城は学園では完全に浮いた存在だったし、ドS疑惑もかなり濃厚だった。しかし結城はそのことに関して並々ならぬ不快感を抱いていた。
そもそも結城の生来の性癖はとんでもないドМであったからだ。結城の正反対に見えるこのような行動の裏には、ただならぬ“願望”が含まれているのだ。結城はもっと絶対的な暴力のもとで屈服していたいのだ。このように震えて声も出ないほど強い存在に蹴られ、殴られ、踏みつけられたかったのはほかでもない結城自身だ。でも結城のその狂気的なまでの欲望を満たしてくれる存在はなかなか見つからなかった。だから結城はその苛立ちと自分自身の願望とを悪役にぶつけまくり、その姿に己を投影しては興奮のあまり息を乱していたのだ。まさにド変態である。
そんな事とはつゆ知らず、周りは結城をドSだなんだと騒ぎ立てあまつさえ半端な自称Mが麗人である結城のそばに集まってきたりするのが、結城自身の満たされない“願望”に拍車をかける結果となった。

prrrr・・・

結城が男の鳩尾を踏みつけているとき風紀用の携帯から着信音が鳴った。

「・・・はい」
『ゆ、結城君・・・おれ・・・』

電話口の相手は最近風紀委員に珍しく立候補して入ってきた正義感の権化、岩原君だ。
声からも十分伝わってくるほどガタガタと震えているのが分かる。

「岩原?どした?」
『副委員長の、副委員長の菅原さんが・・・ッヒ』
「・・・すぐ行くから。いまどこ」

正常に話ができる状態じゃないと判断した結城は場所だけ聞き出してそちらに向かうことにした。

『家庭科室の・・・』
「隣の空き教室だな?」
『うん、うん』

それだけ確認を取ると結城は携帯を切り一つ上の階へと急いだ。
正直に言うと彼の胸は高鳴っていた。期待と少しの興奮。
岩原の言う副委員長の菅原という男はいわば風紀の切り札だった。絶対的な力と相手に恐怖を植え付けることにかけては他の誰にも引けを取らない男で、その手加減の無さはもう多分本人ですらコントロールできないのではないだろうかと誰もが思っている。そのかわりめったに姿を現さない男であり、風紀委員である結城でもまだお目にかかったことはなかった。きっと岩原は知らなかったのだ。風紀副委員長である彼が正義の味方などではないことを。ある意味悪の権化であることを。そして彼こそが他人を屈服させることに興奮してやまない真性ドSド変態であることを。きっと今彼は暴力の限りを尽くしているだろう。そしてそれを止められる者は周りにいない。岩原が助けを真っ先に求める相手は結城。
つまり結城は暴走した副委員長を止める風紀委員という大義名分を得て、彼に殴られにいくことができるわけだ。そして他に助けがない今、彼の目標は結城ただ一人____なんと贅沢なシチュエーション。脳内でご満悦状態の変態結城は真面目くさった顔を貼りつけつつも疾走のせいだけでない頬の紅潮と息の乱れに己を気持ち悪いと蔑んだ。


****

広がっていたのは人の山。屍累々。いや、死んではないだろうが。そしてお山の大将よろしく大きなソファーに肢体を投げ出した男にまたがる男。片方は満身創痍で苦痛に顔を歪めており、またがった男は己の性器を取り出して傷だらけの男に向けている。口元は酷く興奮してにやけている。
「舐めろ」
サルは雄同士で力の優劣をつけるために弱者に性器を舐めさせるらしいが、この行為はまさにそれなのだろう。男の性器を舐めるなど、男の尊厳の破壊に等しい。

「ゆ、結城君・・・!」

まさに神の救いとでもいうように岩原は結城の登場に目を輝かせた。
睨んだ通りそこには一連の事件の黒幕と今は地に伏すその仲間。風紀委員は岩原と菅原と結城のみ。繰り広げられているのは下衆としか言いようのない加虐。
結城は菅原に引き寄せられるように無言で彼に向って歩いた。
あと3メートルというところで菅原がちらりと結城に視線をよこした。たったそんなことでさえ結城はその冷え切った眼差しにひどく興奮した。

「・・・何してんすか副委員長」

言葉だけ正論を吐く。大義名分は必要だ。これからの学校生活で立場を維持するために。

「なにって、いじめ」

特に何事もないように言うその眼は完全に据わっている。怒りをたたえて。

「噂の副委員長ってかなりの下衆だったんすね。気持ち悪い。とりあえずちんこ納めてくださいよ変態」

フルちんの相手に踏まれるのはなんか間抜けっぽくて嫌だ。結城はそう思いつつ相手が標的を自分にシフトチェンジしてくれるようにわざと煽った。

菅原はにやにやと笑いつつ言われた通り性器をおさめた。黒幕と思われる満身創痍の男は、結城が入ってきてから菅原の加勢が来たと絶望に浸っていたのだが、思わぬ救世主だったことに安堵の息を漏らした。それがいけなかった。ちょっとだけ菅原の頭の隅に追いやられていたその存在がちょっとだけ戻った。しかし目標は未だ結城に向いており、黒幕はその鳩尾に加減ない一発をお見舞いされて完全に意識を手放した。一方結城はそんな姿に気分を害し舌打ちをした。一度己に向けられた悪意を他に逸らされることが不快だった。そんな風に殴ってほしいのは自分なのに。無理やりその思いを言葉にするならそれは一種の嫉妬だった。
いきなり蹴りが飛んできた。結城はそれを寸でのところでかわし拳を突き出した。それが相手の上腕二頭筋をかすめる。世間体は大事だ。岩原が見てる。とりあえず結城は戦った。

「お前、名前は」
「ゆうクグゥッ・・・」

聞かれたので答えようとしたら殴られた。理不尽。タカマル・・・。

「なに?ちゃんと喋れよ」
「結城っ、義也」

今度はちゃんと攻撃を避けつつ答えたのに「生意気」と蹴られた。結城はわかっていた。菅原が本気を出せば自分はひとたまりもない。これも自分で遊ぶためのジャブだと。
自分の扱われように結城は興奮MAXだった。軽く勃起していた。更に相手を煽るため結城はその欲情した目で菅原を睨みつけた。
少し煽ったつもりだったが思いのほか菅原は遊びをやめて決着をつける用のパンチと蹴りを結城に入れてきた。それには菅原自身も少し驚いた。菅原は結城のその顔に、その眼に、欲望を引きずり出されたのだ。結城は決して軟弱でないその体が吹っ飛ばされ、宙に浮いて壁に叩きつけられるまでの流れを恐ろしくスローモーションで体験した。正直、たまらないほどキモチヨかった。

「なんだその眼は」

だらんと転がる結城を踏みつけながら言った。
結城は反抗的に睨んだことに怒っているのかとおもった。だが菅原の言うその眼、とは、結城の眼のイロだった。悔しいとか腹立たしいとか、そんな色を灯しているのではない。興奮、期待、恍惚、そして甘い誘惑。そのような感情に彩られた眼は酷く扇情的で妖しかった。菅原はよくわからないムラムラとした欲求に蝕まれた。
鳩尾をグリグリと踏みつけられて苦しみに耐えながら結城はこれだ・・・と思った。はぁはぁと息を乱し、恍惚に溺れた。なんなら菅原の靴を舐めたかった。すでに性器はフル勃起していた。

「なに?これ」

それに目ざとく気付いた菅原は性器をグリグリと踏みつけながら聞いた。菅原は興奮に溺れた結城の姿を静かに見下ろした。今までにない快感の渦が腹の底から引きずり出されるような感覚を味わった。こみ上げる何かしらに答えるように菅原は結城を蹴った。

「ウッ ガはっ」
「おまえ、ヨシヤ?だっけ。俺は恭弥。恭弥様って呼べよ」
「ウグゥ・・・はっアッ」
「ほら、恭弥サマ」
「キョ・・・弥っ」
「サーマ。ほら」
「アアアァアァアッ」
「様は?」
「サ・・・マ・・・」
「はいよくできましたッ」
「グぁッ」
「ご褒美ッ」
「あああああぁ」

何発も、何発も何発も蹴られ、踏まれ、なじられ_____カイカン・・・。
岩原はその惨状にガタガタと震え、風紀用の携帯を握りこんでいる。
委員長にげたままになった回線からは「おい、岩原!?」と怒号が飛んでいる。
その間にも菅原は結城をいたぶり、ぐったりした彼を担ぎ上げて教室を出た。入り口付近にいた岩原はあまりの恐怖から携帯を手放して腰を抜かし後ずさる。菅原はそんな岩原を一瞥し、委員長と繋がっている携帯を拾い上げて結城の口元へ持って行った。

「お前から説明しろ」

わざと打撲の多い腹側を肩口にあたるよう担がれて、圧迫感の痛みに顔を歪ませながらも必死に声を絞り出して結城は告げる。

「家庭科室・・・とな、り・・・・空き教室、黒幕確保・・・ふう、き・・・ぜんいんけが、なし」
岩原はその報告に耳を疑った。

「お前、結城か?その声で怪我なしってのは少々無理があるぞ。」
「いいんちょ、おれ・・・副いいん」
「恭弥様」
「・・・きょ、やサマに拾われた」
「菅原・・・」

委員長は結城を気に入っていた。しかしその行き過ぎた被虐嗜好を受け入れることができなかった。彼を菅原に会わせたらこうなることはわかっていた。だから、会わせたくなかったのだ。まあ、遅かれ早かれその時は来るだろうと覚悟はしていたが。

「こいつ、持って帰るわ」

菅原は電話口で一言そう告げて電話を切った。
岩原は涙ぐみながら颯爽と去っていく菅原を睨みつけていた。



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