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仁王と考える女
中学に入ってから、彼氏と呼べる人間がいた事は結構ある。真っ先に文句を言いそうな真田も別に不純異性交遊などたるんどる!なんて怒鳴った事も無いし、前に私と彼氏(付き合って4か月で俺がいなくても…みたいな事を言われて振られた)が手を繋いでいる所を見ても眉を顰める程度だった。手を繋ぐ程度は流石に不純とは言い難いのかもしれないなと思いつつ、じゃあ何から駄目なんだろうとほんの少しの興味が残ったくらい。
「そりゃ、キスは無理じゃろうな」
クスクスと笑う仁王が、鼻先を擦る。そんなとこに遭遇してしまえばもちろん、顔を真っ赤にして怒鳴るだろう。
「じゃあ抱き合ってるのはどうだろうね」
仁王のワイシャツをするりと撫でて、私も笑う。細いふりして結構がっしりしてるなと思っていると仁王の吐いた息が頬を撫でた。
「アウトかもしれんの、試してみるか?」
ちゅ、と軽いリップ音が鼻の頭で響く。くすぐったくて笑うと豆だらけの手がそっと頬に触れた、求められるままに顔を上げると、色っぽい瞳が瞼に隠される事無く接近。
「目、閉じないんだね」
「どの瞬間も見ときたいタイプなんじゃ」
ふうん、声になる前に触れた唇に、間近で合ったままの視線。綺麗な眼球、と思いながらも他の人の眼球をこんなに近くで見た事は無いから比較対象が無い事に気が付いた。
「考え事、余裕じゃの」
ほんの少ししか離れて無い位置でそんな事を言うから、私はおかしくなって少し笑う。ぺろりと舐め上げられた唇から痺れるような奇妙な感覚を覚えて、また笑う。
「…なに考えとるんじゃ」
「好きだって、思っただけ」
ほーか、仁王の顔が一瞬離れて、ちゅっちゅと音を立てながら移動を開始した。私はやっぱりそれに笑いながら、仁王の返事を脳内で変換させる。放火、放課、砲火…仁王がまた、余裕じゃなと囁く。
「余裕じゃないよ、余裕じゃないから考えてるの」
「…ようわからん」
いいよ、わかんないで。肩越しに見えるちょろ毛をこっそり掴みながら私も囁いた。思ったより、ごわごわした触り心地だった。
(他の事を考えてないと、溶けてしまいそうなくらいスキ)
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